警部チャーリー・アダムの鬱積

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早速その孤児院へ向かおうとして席を立つ 部下や同僚は急に立ち上がった自分を意味深に見つめ、茹で玉子はようやく帰るのかと肩を下ろした。 「チャーリー」 ふと呼び止められ顔を上げる。 部屋の前に立った背の低い中肉中背、猫背の男。見覚えのあるその男はシルクハットを脱ぐと朗らかに笑った。 「やあ、また仕事の虫かい。少しは寝ているのか、ひどい顔色だよ」 「君には言われたくない。ハリソン」 彼は学生時代からの友人。 何をしに来たのかと思ったが彼は茶色い診察鞄からお弁当を取り出した。 「どうせ何も食べてないだろうと思ってね」 流石に職場で友人と話しながら食事ともいかず二人は外に出た。 相変わらずの白い靄。 霧の都とはいうが近くの工場の排ガスに最近は馬車よりも車が走り出したためそのせいもあるのかもしれない。 近くのカフェに弁当を持参して中に入る。 フィッシュドフライとコーヒーを注文しつつハリソンが持ってきたサンドイッチを啄んだ 彼の腕は一流で、医者をしなければコックになると豪語する腕前だった。 ローストビーフの挟んであるそれは彼の自信作だとか。 「それで。何のようだ」 「挨拶だな、友人がわざわざ顔を見にきたというのに」 「最近は医者(本業)より執筆活動で忙しいとか?先生」 「ただの趣味だよ。医者が暇なのはいいことだろう。君がもう少し暇になって二人で釣りでも出来る世界が理想じゃないか」 彼は良き友人だ。しかし趣味がいけない。 小説を書くのも悪いことではないが、彼は巷で人気の探偵がミステリーを解くという作風の物語を書いていた。いい小銭稼ぎと彼は言うがモデルがあのアルフォードという点で自分は一度も読んではいない。 「まさか君まであれを英雄に仕立て上げるとは思わなかったよ」 「彼は魅力的だからね。英雄にはもってこいのキャラだ」 人の気も知らずに、言ってくれる。 「早速だがアメリアはどうしてる?」 柔らかい筈のサンドイッチを噛んだままなかなか飲み込めずに黙り込む。それを訝し、ハリソンは眉を潜めた。 「どうしたんだ」 「今はいないんだ」 「里帰りかい?まぁ、そんな時期ではあるが...何も言わずに帰るのは彼女らしくないな」 運ばれたコーヒーに砂糖とミルクを入れて無理矢理口の中へ押し流す。 「ハリソン、君は最近妻に会ったのか」 そう言うとハリソンは目を丸くした。 「何を言っているんだ、僕以外に誰が君と彼女の主治医を務めると? 彼女は今安定期に入ったばかりだが安静にしないといけないのに、なかなか受診に来ないから何かあったのかとこうして馳せ参じた次第だよ」 「....安定期、というのは」 「妊娠5ヶ月。なんだ聞いていないのか」 「いや、ついこの間 聞いてはいた」 5ヶ月、ということはあと半年もしないうちに子供が生まれるということか。 ハリソンは呆れたような顔つきでため息をついた。 「彼女は二年間、毎週欠かさずうちに来ていたよ。どうしたら子供が出来るか、ずっと相談に来ていたんだ」 「何だと?」 「君は本当に良い妻を持ったよ。 うらやましい限りだ。」 チャーリー・アダムはテーブルに着いた拳をプルプルと震わせ歯ぎしりをした。 「どうしたんだ、チャーリー」 「何がうらやましいだ。彼女は私など愛してなどいない」 「...何を言っているんだ、君は」
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