警部チャーリー・アダムの鬱積

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ハリソンの顔を見ることもなく、怒りで震える拳を叩きつけた。 「私は妻を抱いたことなど一度も無い。 抱いていないものをなぜ子が出来る、医者なら説明してくれ。甲斐甲斐しい、羨ましい?そうさ、彼女は良き妻だ。私だって心から愛していたさ、今だって...彼女に会いたいのだ」 しまいに泣き出してしまった。 大の大人が情けない。 チャーリーは顔を覆いながら友人に許しを求めた。 「すまない。アメリアがいなくなって私も動揺してしまっているんだ。」 「...いや、いいんだ。 それよりチャーリー、君は誤解している」 ハンカチを忘れ、ハリソンが差し出したものを借りると恥ずかしながら赤くなった眼を彼に向ける。 「誤解...とは」 「彼女のお腹の子は紛れもなく君の子だよ」 「何だと」 「本当に昔から酒癖の悪い君の事だ。彼女が週末に媚薬を酒に混ぜていたことも気づかなかったんだろ」 「は?!」 自分の大声に周りの客が一斉に視線を向けるがそれを気にしている余裕はない。 「な、何を、なななんだって?!」 「落ち着きたまえよ。本当に君は何も知らなかったようだから説明するよ」 彼の話しによれば、妻は自分との子を欲し毎週ハリソンに相談をしていた。 仕事にかまける夫も土曜の夜には必ず帰る。 翌日に教会の礼拝を欠かさないためだ。 だから妻は食事の後に息抜きに飲むジンに薬を入れることにした。 流石に毎週飲み潰れるわけにもいかず、酒を飲まない日もあったが自分は酒に弱く飲むと必ず記憶を失ってしまうもんだから服を脱ぎ散らかしていようが床に寝ていようがいつもの事だと思っていた。 ...情けない。 今度は恥ずかしさの余りに顔を赤くしながら友人の視線から逃れようと試みる。 そしてもう一度問う。 「本当に...私の子なのか」 「なんだ。アメリアが浮気でもしていると思ったのか」 彼女を疑いだしたのは半月ほど前だった。 たまたま仕事が一区切りつき、昼食をとりに家に帰った。彼女は家におらず買い物にでも出かけているのかと思ったが、見てしまったのだ。彼女が大切にしている鍵のかかった箱 二・三音、部屋を覗いた時に振動か何かで たまたま聞こえたオルゴールの音に振り向くと鏡台の上に置かれたそれは開いていた。 中には指輪が入っていた。 女性ものにしては大きく、ごついデザインのそれは写真と共にしまわれていた。 その写真に彼、アルフォードと写ったものがあった。 彼女には聞けなかった。 勝手に彼女の部屋に入ってしまいあまつさえ 写真を見た 等と罪悪感に加え、もしも二人に何か関係があったとしたら、それを知ってしまったらという恐怖が確かにあった。 全ては独りよがりの嫉妬心。 アルフォードに対しての、若くて地位も名誉もある彼と比べ惨めな自分など誰も顧みないだろうという自虐的な思い込みだった。 「私は、今とても懺悔がしたい」 「僕は神父ではないが話は聞くよ」 ありがたいことに友人の彼はフィッシュポテトをナイフとフォークで手術でもしている手付きで食べながら頷いた。
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