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「私は...妻を疑っていた」
「そのようだね」
「こんな老いぼれに嫁いだことを彼女は嘆いているだろうと…」
「まだ50手前じゃないか、老いぼれにしては元気な方だと思うよ」
「...彼女は、逃げたのだと」
ん? と友人は手を止めたがチャーリー・アダムは拳を握りしめ、懺悔を続ける。
「妻は私ではなく、誰か他の男と子を作り
どこか遠くへ逃げてくれたのだと思いたかったのだ」
「...それはどうしてだい?」
「言っただろう。彼女はいないんだ」
チャーリー・アダムは妻が怪盗に誘拐されたのだと話した。友人であるハリソンはナプキンで口許を拭くとコーヒーを飲んだ。
彼は砂糖なしのミルク派だった。
「...彼女の実家には?」
「行ったさ。だがそこにはいなかった。」
アメリアの実家 ウィンプソン伯家は祖父の親友の家だった。私達の結婚も決めたのは祖父だった。
出てきた夫人に アメリアがいなくなった そう告げた。
自分はなんて甲斐性のない夫だと責められると思っていたが夫人は意外な反応を見せた。
「そうですか。でももう嫁いだ子ですので」
この一言で終わりだ。
自分の娘が姿を消したと聞いて困惑するどころか表情一つ変えずにそう言い捨てたのだ。
その理由を後から知った。
アメリアは養子だった。
夫人に子は出来ずに夫が連れてきた子を娘として嫁がせたに過ぎないのだと。
アメリアは幼い頃から夫人に辛くあたられていたのだと初めて知った。
おそらく夫がどこかで孕ませた子なのだと、夫人はそう信じていたらしい。
「あれほど良き妻がなぜ幸せになれないのかと心から悔やんだ。だから、私の元から逃げ、今度こそ幸せな人生を掴んでくれたのだと」
チャーリー・アダムはそう告げ拳に額を押し付けた。ハリソンはため息をつく。
「なぜ君は自分が幸せにしてやると思えなかったかね」
「...悪い癖とでも言うべきか」
母を失くし、父を恨んでから自分は父のようにはなるまいと固く誓って生きてきた。
警官としての使命に全うし、正義を貫き、
誇りだけは失うなと自分を鼓舞してきた。
だが色恋に関しては...自分で言うのも情けないほど奥手で自虐的なところがあった。
信仰にも厚く、清い人間であろうと思えば思う程、酒の力を借りねば女も抱けぬ臆病者なのだ。
「それで、君は犯人の手がかりを見つけようと机の虫になっていたわけか」
「他に手段があるまい」
確かに とハリソンは頷くがふと時計を見ると立ち上がった。
「診察の時間だ、僕は行くよ」
無情な友だ。そう顔に書いた
「そんな顔をするなよ。僕が思うにだけど、彼女は案外近くにいそうな気がするんだ。
それに君は優秀だ。本当はもう目星は着けているのだろう」
「...」
ハリソンは食事代を置くと肩を叩き、店を出た。
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