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勢いよくグラスを傾け、酒を煽った。
妻が自分の子を宿し、家からいなくなってしまったというのに。
自分は広い部屋に服を脱ぎ捨て酒を煽るだけとは...なんとも、妻が見たらなんというか。
私は床を這いずり回ってでも犯人を探しだすあなたを誇りに思ってますわ。
そう、そうしなければ。
自分の妻と子を他の誰が救うというのだ!
テーブルにグラスを叩きつけるように置くと服も纏わず立ち上がり、辺りを見回した。
綺麗になった床。
今朝何がどこにあったか、自分は覚えている
もし何か盗まれていたりしたら自分なら気付くはずだが、それらしきものは思い付かない。
リビングの次は自分の書斎、シャワー室にトイレも見て回るが思い付かない。
台所に関しては自信がない。
日頃から入ることが無かったから流石に調味料から皿に銀匙まで朝探し回るくらいだ。
残るは妻の部屋。
ドアを開け、すぐに目につくのは鏡台だ。
窓のすぐ隣に置かれたそれには日頃妻が使っているコロンやらブラシが目につく。
本棚に、ベット。
特に変わったものは見当たらない。
妻の部屋に入るなど、浮気を疑うきっかけとなったあの日たった一度きりだったからなんとも もやもや と胸元がしたがアメリアの面影にそれを撫で下ろした。
「後で謝らなければ..」
そう呟きながらもう一度見回してみる。
オルゴールが見当たらない。
そう気付いたのはベットの下の床を除き見た頃だった。
あの日見た小さな箱のオルゴール。
中にはアルフォードと写った写真に指輪が入っていた。
「待て、しっかり思い出さなくては」
ボサボサのバイキングのよう、妻がそう言った口髭を撫でながらよくよく頭を捻る。
数枚の写真。
あれは孤児院の写真なのではないか?
アルフォードも孤児院で過ごした聞く。
妻は実の子ではないと夫人に言われた、ならばもしや初めの事件で手紙を見つけたという女中ヴァレンシアも写っていたのでは..。
こじつけすぎか? しかし...
ベットの下で頭だけを入れた状態で首をかしげる。灯りにと持ってきた燭台の火がゆらゆらと影を揺らした。
「ん?」
影の動きに違和感を覚える。
一枚だけ床板がずれている気がするのだ。
それに、そっと手を伸ばした。
何か不気味な生き物の歯軋りのような音を立てながら板は押した面が引っ込み、壁側の面が浮き上がる。
より頭を突っ込んで中を覗く。
板の下に僅かな空間。そこには小さな鍵が入っていた。
「きやあっ?!」
女性の声が急に聞こえ慌てて振り向いた。
部屋の入り口に女性が立っていたのだ。
「いっ!き、きさま誰だ!どうやって中に」
侵入者に向き直ろうとしてベットに頭を打ち付ける。かなりの鈍痛にみまわれたが素早く立ち上がると部屋の前に立つ若い女中は林檎のような真っ赤に染まる顔を手で覆い、背けた。
「それより何か、服を!」
「...はっ!これは失礼」
自分の格好に慌てると直ぐ様妻のベットからシーツを拝借して露になっている体を包む。
「で、君は誰だ。不法侵入ならば逮捕する」
全くもって格好のつかない警告だ。
しかし服を着ている間に逃げ出すとも限らない。
「あの、私はヴァレンシア・ウェールズと申します。」
背中を向けたまま彼女はそう言った。
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