警部チャーリー・アダムの鬱積

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チャーリー・アダムは駅で汽車を待っていた 自宅で見つけた鍵はオルゴールの物で中には写真と指輪が入っていた。 手繋ぎの木が彫られた指輪に、 孤児院の写真。 その敷地なのか草の繁る草原の写真。 波打つ海のような草原は知った草で出来ていた。薬物として規制のかかっているアヘンだ。 Alford Blues アルフォード=ブルース。 国民が英雄と讃える彼の正体は闇組織の黒幕 Loader Flubs ローダー=フローブス 切り裂き魔などかわいく見えるほどの大悪党だった。 おそらく、渡した切符が捕まえるなら最後のチャンスだということなのだろう。彼を捕まえるのは警察としての義務であり使命だった。例え彼が国民にどれだけ愛されていたとしても。 胸元に光るバッチは無い。 コートの胸ポケットから葉巻を取り出すと シガーカッターで先端を切り落とす。 これで三本目。 部屋にはヴァレンシアが食事の用意をして待っているだろう。 身籠った腹を隠し、変装した妻が。 そう、もう一人の英雄 ルツ が。 妻もまた、いつまでいるのかわからない。 取りに帰った鍵が無いことでおそらく自分がどこに行ったのか悟るだろう。 火を灯したそれを咥えると腐葉土に似た枯れ葉の燻された煙を吐き出す。 盗人は絞首刑だ。それが例え盗んだ金を各地の孤児院に寄付していたとしても。 子供を牢の中で産み、その妻を失う事など私に耐えられるのか。 それこそ、生き埋めにされる気持ちだった。 だが私は警官であり、国民を守る義務がある しかし...国民は自分を信じてくれるだろうか。 父のように、自分の信念を貫くことで失うものを知った自分は父のように成るまいと思いながらも父の背を追っていた。 父親と同じように伸ばした髭。 それを撫でながら正義を固く信じていた。 指をさされ、時には罵声を浴びせられながらも父の正義は間違ってはいなかったのだ。 彼女は罪の重さに絶えきれず、告白した。 国民達が掌を返したのは母が死んだ後だ(遅すぎた)が。 チャーリー・アダムは汽笛の音に顔をあげた。空気中を漂う水滴の粒は最後の白い煙を溶かすように漂っている。 二本と三分のニ。 鉄皿の上に置かれた葉巻の吸い殻を残して チャーリー・アダムは霧の中のホームへと歩いていった。          完 悪の親玉か 世紀の盗人か はたまた何事もなく彼は時を歩むのか 人生の選択は数多くあれど彼の選択は苦行である。汽車に乗り靄がかる先の 彼 チャーリー・アダム が辿り着いた(結末)は読者に委ねる             
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