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ゆで卵署長はぐらぐらグツグツ
突っ立ち警部チャーリー ゆるゆる卵に飛び込んだ
石畳の坂を昇る。
帰宅中路上で子供が歌っているのを苦々しく思いながらも平然とした顔で家にたどり着く
あんな歌を近所で歌われ、さぞ家内は心を痛めているだろう..
毅然としながらも愛する妻に想いを馳せながらアパートの扉を開いた。
ベルの音にパタパタと迎えの足音が駆けてくる。
「お帰りなさいませ、あなた」
賑やかに笑うと、ブロンドの髪を綺麗に結い上げた美しい妻は差し出した鞄を両手で受け取った。
一回り下の若い妻とは親戚同士が決めた婚姻だった。そうでもなければこんな美しくも甲斐甲斐しい妻を娶ることなど自分には一生無理であったと思う。
「まぁ、あなたの髭まるでバイキングみたい」
無精に伸びた髭を指で撫でると妻はくすくすと笑った。
「揃えた方が宜しいですね、
床屋を頼んでおきますわ」
「髭ぐらい自分で整えられるさ。
それより腹がすいてな、何か入れられそうなものはあるかな」
妻は 勿論 と微笑むとリビングへ促した。
暖かな暖炉の前、ソファに腰を下ろすと妻は直ぐ様温かいタオルを持ってきた。
「今日も床板をお掃除されてらしたのね」
「恥ばかりかかせてしまってすまないと思っている」
格好の悪い旦那で何とも着恥ずかしながら頭を垂れた。
妻は大きな目を一度丸くし、くすりと笑う
「まぁ、私は誉めたつもりでしたのに。
今日はなんだか疲れていらっしゃるのね」
そう言うとタオルで顔を拭く自分にスープを出し労ってくれた。
「私は一生懸命 床を這いずり張ってでも犯人を探し出すあなたを誇りに思ってますわ」
これ以上の妻が他にいようか
恐らく世界中を探してもいないだろうと自分は断言できる。
「気負いすぎないで下さいね」
優しい妻の言葉が彼の支えであった。
愛していた。心から。
結婚して三年。子供は出来なかった。
何しろ毎日のように事件が多い、仕事にかまけ家にも帰らない日が続いた。
ただでさえこんな年寄りに嫁いだのに誰もいない安アパートで一人ともなればそれは当然の事かもしれない。
「パイもありますが、召し上がります?」
「頂くよ。
君のシェパーズパイは世界一だからね」
羊肉とポテトのパイに舌鼓を打ちつつ、そのパイの味が変わらない事に安堵する。
以前パイに毒物を混ぜ婦人が夫を殺した事件があったからだろう、ふとそんなことまで考えてしまう。
妻が自分に毒を仕込む等ある筈がなかろうにそう思いながらも職業柄か疑り深くなっているのかもしれない。
はぁ っと自虐に満ちたため息をつく。
妻は気を利かせそっとリビングを出ていった
食事を終え、自分の書斎でデスクから葉巻を取り出す。シガーカッターで先端を落とし、火を着けると革椅子に腰掛け深く息をついた。
煙と共に全身の力が抜けていく。
立ち込める枯れ葉の燻されるような独特な薫りと煙が自分の心情そのままに靄がかっていた。
デスクの上には一枚の紙がある。
封筒には封蝋が、大木のような絵柄のそれはある人物の印が刻まれていた。
怪盗ルツ
彼はいつも証拠を残さず盗みを働くが、昨夜は違った。普段は封筒のみ、次のターゲットを予告するように宛名が書かれており、差出人として盗みに入られた人物の名が。
指紋は検出出来なかったが証拠品ではある。
何故自分が持っているのか問われれば簡単、自分宛だったからだ。
次に盗みに入る筈の名家の名が無く、中には一枚の紙のみ。
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