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翌朝、髭を整え妻の作った朝食を食べる。
テーブルに置かれたスタンドで立たされたゆで卵に細長いトーストを苦々しく見つめた。
子供達の歌が脳裏をよぎる。
エッグ・ソルジャー
奇しくもそれは自分の子供の頃からの大好物で。
半熟とろとろの卵をトーストにつけなかなか口に運べないでいると妻は心配そうに見つめた。
「あなたやはり疲れているのではありません?食欲が無いのでしたら他のものに..」
「いや、食べるよ。」
トーストを口に運ぶと妻はほっと息をついて微笑んだ。
「今日は遅くなります?」
甲斐甲斐しく飲み物を注ぎながら妻は聞く。
「いや..どうだろうな。少し寄りたいところがあってね」
「そうですか」
「どうかしたかい?」
妻は戸惑いながらも顔を赤らめる。
「どうした?」
「まだ、お医者様に行ったわけではないので。その..」
そう言いポットから手を放すと腹部に手を当てた。
「もしかしたら、ですが..」
ーーーーー なんて事だ。
叫んだつもりが声が出ずに勢いよく立ち上がった。
「あなた?」
心配そうに見つめる妻の肩を掴み、震える声で椅子へ促した。
「立ち仕事は出来るだけするな。
体は冷やさないように、手伝いをすぐにでも頼もう」
ソファに腰を下ろす妻にそこにあった膝掛けをかけると妻は驚いた顔をすぐに綻ばせた。
「まぁ、あなた気が早いですわ。」
くすくすと笑う。
その顔に頬を寄せキスをすると家を出た。
妻が身籠るなどあり得ない話だった。
自分の子供ではない。そう分かっていても、喜ばなければ、夫であるならば、妻が妻でいてくれているうちに。
チャーリー・アダムは顔を上げる。
目の前の豪邸を睨み付けその扉にあるライオンの顔を模したドアノッカーを叩きつけた。
すぐに老人が隙間から顔を出し扉を開ける。
「これは警部、朝から如何されました」
「主に用がある。
アルフォード=ブルース殿はご在宅か」
執事であるセバスチャンは頷くと中へ促した
自分も祖父は軍人であり、それなりによい家柄ではあった。だがこれほどまでに広い館に住んだことはない。
中に入ってすぐに広がるエントランスに思わず眉を潜める。
天井に吊るされたシャンデリアに大きな絵画が飾られ床一面は白く、手入れがいいのだろうピカピカに光っているように見える。
すぐに主人は階段から姿を現した。
黒く艶やかな髪は癖があり、褐色肌に淡い瞳の男。整った顔立ちに長身、肌の色さえ無ければ、ギリシアの彫像のようだった。
「いらっしゃると思ってましたよ、警部」
トレードマークの鹿撃ち帽に虫眼鏡はないものの、本人が出てきたことに肩を下ろした。
「アルフォード、君に話がある」
「どうぞ、出る前に会えてよかった」
促されるまま、彼の部屋へ向かった
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