警部チャーリー・アダムの鬱積

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歳は確か三十そこそこ。肌の色といい決してこのような屋敷に住める男ではない筈だったが、彼の父親はかの有名な四大貴族の内一つ ウエストロンスター公爵。 母は異国の者だったがゆえ結婚するわけにはいかず、身籠った彼の母は公爵の元を去り 一人子供を産んだという。 その後彼女は病死、公爵は既に結婚し子供もいたがこの青年を引き取ったのだとか。 正統な跡継ぎではないものの、父親の愛情を受けられたことはこの生活ぶりからも見て取れる。 「それで、何のご用かな」 自室のソファに腰掛けるとアルフォードは微笑んだ。 足を組み、腰掛けただけでも形になっている 巷で人気なのもこの甘いフェイスだとか。 胸くその悪い話だ。 「来ると思っていた、ということは何故ここに来たのか もうわかっているのだろう」 アルフォードは笑顔を崩さず じっとこちらの様子を見つめている。 「これはどういうつもりだ」 早速、胸元から封筒を取り出す。 それを涼しげな顔で受けとるとアルフォードは膝に肘をうち、顎をのせた。 「うん、これは確かに僕の文字だ。」 「弁解を聞こう。 これは昨夜盗みに入られた屋敷から見つかった。 何故君の手紙がある。よりによって私宛に」 「...なるほど」 一人納得したように頷いて青年は立ち上がった。すぐさまコートを羽織りだすのは逃げるつもりなのか 「逃げるのか」 「逃げる?何故?」 口端を上げ、微笑むとその手紙を返した 「...まさか君は私が怪盗ルツで、この手紙を君宛に屋敷に残したと? 頭の足らない警察が考えそうな事ではあるが、本当に君はそんなことを言いに来たのか」 「違うというのか」 怒鳴り付ける勢いでその手紙を奪うと目下のテーブルに両手を打ち付けた。 「違うね、大間違いだ」 「ではこの手紙は!」 青年は一度天井を仰ぐと少しばかり物思いに更けながら首を振った。 「..そうだな。その手紙は確かに僕が書いてある人に宛てたものだ。 けれど勿論 君 宛てじゃあ無い。 宛てた人物も言うつもりはないよ。 ...けれどその人物は君に委ねたいようだ」 「全く話が読めん」 「じっくり考えてみれば分かることさ。 悪いが僕は出掛けなければならない、結果が分かったら教えてくれ」 さっさと身支度を整え部屋を出ようとする青年を呼び止める。 「どこにいく?」 「何ぶん忙しくてね、失礼するよ」 「ちょっと待て。話はまだ終わってない!」 慌ててその後を追うと軽やかに階段を下りる背中に叫んだ。 「アメリアが身籠った!」 アメリアとは勿論、妻の名だ。 何故彼にその話をするのか、察してくれ アルフォードはぴたりと階段途中で足を止め、肩越しに言った。 「それは...本当か」 「勿論だ!」 どんな顔をするのか じっくりとその表情を見つめた。しかし彼は振り向かずに足を進めた。 「そうか...おめでとう」 一言告げるとアルフォードは鹿撃ち帽を被るとさっさと階段を下りて執事と共に屋敷を出ていった。
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