警部チャーリー・アダムの鬱積

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妻が怪盗に誘拐された。 それを信じてくれるものはいなかった。 急ぎ自宅に帰ったが、部屋は普段と何も変わらず、鑑識に部屋中の痕跡を探させたが特に何も出なかった。 買い物にでも行ってまだ帰っていないのだろう。そう、もう少し経てば妻は帰ってきてあの可愛らしい眼を丸くし、笑うだろう。 そう信じたかった。 だが、妻はその日帰っては来なかった。 部下によると通報したのは老人だったらしい、妻が見知らぬ男に馬車に乗せられるところを見かけたというがすぐにいなくなってしまい目撃者すら消えてしまった。 頭でっかちのゆで卵はこう言った。 「仕事ばかりで家族を省みないからこうなるのだ。少し休んで迎えにいったらどうかね」 部下は言った。 「もし行方が分からないようなら探偵に探して貰ってはどうか」 世間に訴えたかった。 お前らが英雄として讃えているのは只の犯罪者だ。私から妻を奪った大悪党だと。 恐らく世間はこう言うだろう。 「泥棒だけでなく妻にまで逃げられた。 突っ立ちチャーリー 」 私が何をした。なぜこんな仕打ちに合わねばならぬ。苛立ちの中今まで怪盗ルツが盗みに入った事件の捜査資料をひたすら捲った。 何か見落としは無いか 何か手がかりは、奴を捕まえることが妻を救い出す手立てと信じて。 手口は大抵夜だった。 主や使用人が眠りについた頃に犯行におよび何か物音がしたと起きた女中が通路に落ちていた手紙に気づく。 それを拾って開いた部屋を覗き込むと窓が開いている。 大抵はそのまま朝を迎え、後に主が盗まれていた物に気づくといった感じだ。 開けられた窓からの侵入は不可能。 鍵が掛かっていたことは使用人だけでなく屋敷の主も証言している。 中に仲間がいない限りは。 事件が起こった屋敷ではその後すぐ使用人が何人も辞めさせられた等良くある話だ。 それでもクビになった使用人達は ルツ を恨まない。 大抵盗みに入られた家は主人はろくでもない人間だったりするからだ。 使用人に日頃の鬱憤を当たり散らして晴らす者。金のことばかり考えて暇さえあれば自分の資産を数える者、等。 しかしいくら主人がろくでもない人間だったとしても、働き口を急に失えば誰しも恨みの一つくらい持つものだと思うのだが…… 調べてみるとクビになった使用人達はなぜかアルフォード=ブルースの紹介で新たな職に就いていた。 これは偶然なのだろうか? 一人や二人じゃあるまいし、ましてこの霧の都では仕事が溢れているとは言いがたい。 アルフォードには何かある。 そう考えざるを得ないだろう
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