第一章『Lesson』

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第一章『Lesson』

 授業の始まるチャイムと同時に、クラス担任であり数学の教科担当でもある(おき)が、授業のために教室に入って来る。  教卓にどさっと置いた荷物の一番上は、おそらくは先日の──。 「中間テストの採点終わったから返すぞ! 順番に取りに来なさい。まず有坂(ありさか)」  予想的中。  出席番号一番の有坂 怜那(れいな)は机に手をついて立ち上がり、教卓まで悠々と歩いて行った。 「……有坂、これ」  目の前に突き出された答案用紙の、右上の赤い数字は二十七。及第ラインの四十点を明確に下回っている。  いまどき悪い結果を大勢の前であげつらうような教員はいない。沖も何か言いたげな表情で、今にも口が動きそうではあったが、その場では特段お叱りもなかった。  怜那は、身長差のある沖の顔に視線だけを向けて、無言で赤点の答案を受け取る。  自席に戻るためくるりと(きびす)を返すと、反動で背中に垂らした長い黒髪が宙に弧を描いた。 「次、安藤(あんどう)
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