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第九章『Overnight』
卒業式の日に希望した通りに、怜那は四月になってすぐに沖の家に招かれてやって来た。
それから、もう何度かここには遊びに来ている。
初めて来たときは、さすがの彼女も柄にもなく緊張した様子も見受けられたものだったのだが。
やはり怜那はすぐに馴染んで、沖の家でもいつもの調子で気楽に過ごすようになった。
沖が頼んだわけでもなく、意外と器用な彼女は食事を作ってくれることもある。まだ、作業自体は手慣れているとまでは言えないものの、味はまったく問題がない。
ついこの間まで高校生だった上にひとり暮らしをしているわけでもないのにと沖は感心していたのだ。
家でお手伝いをするようなタイプにも見えないのに、というのはさすがに怜那に失礼だろうか……。
「ねー、沖先生。これ使っていい?」
今日も何やら二人分の昼食の用意をしてくれている彼女が、キッチンから沖に声を掛けて来た。
「いいよ、そこにあるものはなんでも使って」
作ってくれると言っていたので、沖はそれを見込んで食材は多めに買って来てあるし、何を使おうと一向に構わないのだけれど。
逆に大量に余っても、ひとりでは使いきれなくて困りそうだ。
「……あのさ、有坂」
問題はそんなことではなく。
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