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「その沖先生って、そろそろ止めないか?」
沖は言い難そうに切り出した。
「家の中ではいいけど、外で『先生』って呼ばれるたびに俺は生きた心地がしないんだよ。お前、高校生以下にしか見えないし。──ほんっと、我ながら小せえなとは思うんだけど」
「え? じゃあ、私は何て呼べばいいの?」
躊躇った末の沖のそんな申し出に、怜那は特に文句をつけることはなかった。ただ、沖には想定外の問いが返って来たのだ。
「何、って……、……いや沖さんでいい、普通に」
「ふーん、わかった。でも急には切り替えらんないから、しばらくは間違えるかもしれないけど。頑張って慣れるようにするから」
料理の手を止めないまま、彼女は沖の頼みをあっさり了承した。
「せん、沖さんお待たせ、ごはんできたよ~」
料理を盛った皿を、小さめのダイニングテーブルに並べて、怜那が沖を呼ぶ。
「ホラこれ、見てよ! 結構美味しそうにできてるでしょ? さ、食べよ」
怜那は自分で作ったものを口に運びながら、テーブルを挟んで同じように食べ始めた沖に、手料理の感想を求めて来た。
「ねぇ、どう? 美味しい? 沖、さん」
「……」
怜那の言葉も耳に入らないようで、沖は黙って何やら考えている。
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