第九章『Overnight』

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「……やっぱり、家の中では先生でいい。外でだけ止めてくれたら」 「そんなの無理! 私そんな使い分けできないよ、絶対」  実際に呼ばれてみたら何かが違ったのか、そんな勝手なことを言い出した沖に、当然のように彼女が異を唱えた。 「だからどっちかに統一して。どっちでもせん、沖、さん? の好きな方にするから」  怜那のもっともな言い分に、沖もそれ以上強硬に言い募ることはできない。 「……それじゃ、沖さん、でお願いします」 「はーい、OK! わかった~」  考えた末の沖の言葉を、怜那は今度も軽く受け入れた。 「ねー、じゃあさ。私もお願いがあるんだけど」 「何? 遠慮せず言えよ」 「うん。あのさ、私のことも有坂じゃなくて、名前で呼んでくれない?」  彼女がついでのように言うのに、沖も異存などない。 「いいよ、……怜那」 「あ、ありがと。なんかヘンな気もするけど、やっぱ嬉しい」  はにかむように笑う怜那を見つめていた沖に。 「あー沖さん、ほら早く食べてよ。冷めちゃうじゃん!」  怜那に叱られて、止まっていた食事を再開しながら沖は内心思う。 (まだ卒業してからそんなに経たないのに、すっかり立場逆転って感じもするな。まぁ、俺たちはこれでうまくいってるんだからいいけど。いいんだけどさ)  ……これじゃどっちが『先生』だかわからないよな。
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