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◇ ◇ ◇
約束の土曜日。
今日はもう最初から泊まることがわかっているので、怜那とは昼食を済ませて午後からにしようと話していた。
そろそろ時間だな、と空き時間を利用して仕事をしていた沖が時計を見たとき、ちょうどインターホンが来客を告げる。
とりあえずさっと机の上を片付けて、沖は玄関へ向かった。開けたドアの向こうには、大き目のリュックを背負った恋人が笑顔で立っている。
「その荷物、いったい何を持って来たんだ?」
「何って、着替えと洗面道具とか。たいした量じゃないよ、リュックが大きいだけ。ちょっとした旅行用のしかなかったから。でも服って軽いけど結構嵩張るんだよね、今の季節は薄着だからまだいいけど」
中へ通しながらの沖の問い掛けに、怜那は確認するように返して来た。
「あ、それ以外には別に何も要らないよね?」
「それだけあれば、もう他は要らないだろ。お前が何を想定してるのか知らないけど、ウチにあるものは全部使っていいから」
いったい他に何が? と浮かべつつ訊いた沖に、怜那の口から出たのは意外な代物だった。
「えーと、タオルとかかな。友達んとこは、タオルに限らないんだけど予備なんてそんなにないことが多いからさ。いつも泊まりに行くときは、私一人じゃなくて複数だから余計になんだけど」
「タオルはもちろん持って来なくていいよ。普通のもバスタオルもちゃんとあるから」
合宿所じゃあるまいし、と苦笑交じりの沖の言葉に、定位置のベッド脇のラグに腰を下ろした彼女はよかった、と微笑む。
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