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◇ ◇ ◇
「可愛いからっていい気になってさ!」
小学校や中学校では飽きるほどぶつけられた理不尽な負の感情も、高校に入学してからはすっかり鳴りを潜めた。
面と向かっては慎んでいるだけで、どこかで中傷されているのかもしれないが、知らないところでなら好きにすればいい。
クラスの男子や男性教師に笑顔を向けただけで、「媚びている」と陰口を叩かれた日々。
幼い頃から小柄な方だった怜那は、男女問わず背の高い相手に対すると目だけで見上げる癖があった。その上目遣いが、余計に媚の上乗せのように取られるのだ。
単に、顔ごとだと首が痛いからという理由でしかなかったのだが。だからこそ、この癖だけは今も直っていない。
……男性相手のみ取り上げて騒ぐ、明らかに恣意的な状況からして言い掛かりにも等しい。怜那にとって、それ自体は傷つくことでも何でもなかった。
ただひたすらに煩わしく、すっかり無表情が板についてしまったのだ。
もともと感情を表に出すタイプではなく、特に無理しているわけでもないので継続しているだけの話だった。
──先生なんて一番若くたって七歳も上だよ!? おじさんじゃん。まあ、私は年関係なくそんなのはどうでもいいんだけどさぁ。
口にした通り、怜那は沖には何ら興味も抱いていなかった。とりあえず名前と顔は覚えていて、他の教師と見分けはつくという程度でしかない。
文系クラスで女子が多いということもあり、先生が、先輩が、あるいは何組の誰それくんが、と事あるごとに盛り上がるクラスメイト。
いつも男の話ばかりで、何が楽しいのだろう。
怜那には正直、まったく理解も共感できない。だからと言ってわざわざ突っかかる気も無論ないのだが。
たまに巻き込んで来ることはあれど、基本的には構わないでいてくれるのはありがたく思っている。
すべてにおいて『低温低湿』な印象も含め、怜那は周りには一匹狼的な個性として認識されているらしかった。
クラスメイトともつかず離れずの距離を取り、深い付き合いはなくてもそれなりに平和な日々を送っていたのだ。
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