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◇ ◇ ◇
「沖先生に呼ばれました」
ほとんど足を向けることもなかった職員室。
怜那は、ドアを開けたその場で立ったままそれだけ口にした。
「おう、有坂。こっち来なさい」
声が掛かった方向へ目を向けると、部屋の中ほどで沖が座ったまま手招きしている。学年で一塊になっているらしい机の一番端なのは、やはり若いからだろうか。
怜那はおざなりに軽く頭を下げて、ゆっくりと彼の元へ歩を進めた。
「有坂。お前もうちょっと何とかしないと、このままじゃマズいぞ」
真剣な顔の沖の言葉の意味はわかっている。
先日の中間テストの結果だろう。怜那にとっては、特に驚くようなものでもなかったのだけれど。
「私、私大文系希望だし。受験にも数学なんて要らないから、別にいいです」
平然と答えた怜那に、沖は一瞬言葉に詰まったようだが、教師に対して失礼だと咎められることはなかった。
「いや、私大は推薦も多いだろ? その場合、評定で数学の成績は嫌でも外せないし。それよりなにより」
彼にとっては怜那の物言いを気にするどころではないのだろう、と次の言葉から察せられる。
「お前さ、なんでそんなに余裕持っていられるのか知らないけど、受験以前にこのままじゃ進級も危ないんだよ。去年の担任の先生には何も言われてないのか? お前、二年に上がるのも結構ギリギリだったんだけど」
シビアな現実を突きつけられて、さすがに怜那は動揺する。
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