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「うわ、髪長、結構伸びたね。 」 夏休みが明けて久しぶりに会った友人に言われて改めて襟足と前髪に触れて、確かに思ってた以上に伸びてるな、なんて考えてた。 「切らないの?髪。 」 そう言う友人に僕は、近いうち、気が向いたら切ると思うよ、なんて曖昧な答えを返して誤魔化した。 最後に切ったのは何か月前だっけ、1人でぼんやりと思い出して、数えてみると最後に散髪に言った日からもう三ヶ月が経っていた。 三ヶ月か、そりゃ髪も結構伸びるよな、そろそろ先生にも嫌味言われるかもしれないし来週末辺りに切りに行こうかな、そこまで考えたところで、ふと、最後に切った時の記憶が浮かび上がってきた。 いつも通り長くて目にかかってた髪を見て君は 「いつまで伸ばすの、切った方がいいよ。 」 そう笑いながら僕に言っていた。好きな人にそんな事言われたら切るしかないだろ、そんな本当の気持ちを隠したまま僕は、そうだね、今週末辺りにでも切りに行くつもりだよ、なんてその場で思いついた嘘っぱちを君に返した。 そうして君が居なくなったのは、奇しくも僕が髪を切った2日後のことだった。記憶の再生を終えた僕は、もう1度自分の髪の毛にそっと触れる。 いつの間にか伸びた髪の長さは、君と離れてから過ごした僕の時間と同じくらいなのか、そんな風に感じた。失恋で髪を切るっていうのは、一昔前のお話でよく聞いたけれど、2人で過ごした時間を断ち切るって意味なのかな、なんて、柄にもないことを考えて1人で可笑しくなる。 ふぅ、と息を吐いて携帯を開いてカレンダーをなんとなく見つめてみる。髪を切るのはまた今度にしようかな、1人で呟いて僕は携帯をしまい、机の上のノートに向き直った。
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