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節分
学校訪問をしていると,驚くような文化体験も沢山出来た。その中でも,一番驚いたのは,幼稚園の節分行事だった。
先生たちが全校の園児たちを幼稚園の一番広い「遊戯室」に集めて,説明を始めた。今日は,節分だから,近くの山に住む鬼が今からやって来ると。みんなにやっつけてもらいたいから、今から豆を配ると。
小さな手作りの紙袋を持っていた園児たちは,みんな鬼がいつ飛び出してくるのかと辺りをキョロキョロしながら,列を作り,鬼をやっつけるための豆を配ってもらった。
豆を配り終わり、豆を投げるときの掛け声は,「鬼は外、服は内!」だよと説明し終わるや否や,いきなり鬼の格好をした保護者が怖い唸り声を出しながら,遊戯室の中へ乱入して来た。
ここまでは,予想できていたが、次何をするかと思ったら、何と鬼が教頭先生を捕まえ,手や足を紐で括り,人質にしてしまったのだ。この意外な展開に、子供たちも,私も,びっくり仰天した。
年少さんや年中さんは,目の前の光景が恐ろしすぎて,怖くなって,号泣し出した。鬼が登場してもあまり動揺していなかった年長さんでさえ、教頭先生が人質にされたのを見ると、さすがに怯えた。泣きそうになっている子も,沢山いた。
顔をくしゃくしゃにして泣きじゃくる子供たちだらけの混沌とした状況に陥ってしまった幼稚園の遊戯室に,身を拘束されていない先生たちが現れ,子供に豆を投げ,鬼を退治するように促したが,年少さんや年中さんの園児たちはとてもそれどころではない。呼吸困難になっていないかな?と心配するほど激しく全身を恐怖で震わせながら咽び泣き続ける。
年長さんだけ,これまでの二年間分の経験と知恵を活かそうと,気を取り直し,鬼に向かって,豆を投げ始めた。
鬼は,子供たちが豆を投げ始めると,意外とあっさりと,人質の教頭先生の手や足を括っていた紐を解き,遊戯室から逃げ出した。
私は,鬼が登場してすぐに助けを求めて,私にしがみついて来た,年少の女の子を背中を撫でたりして,慰めようとしたが,鬼が逃げても,しばらく震えながら泣き続けていた。可哀想だった。
鬼がいなくなると,本気で教頭先生のことを心配している園児たちが,教頭先生を囲み,
「大丈夫?」や,「怖かった?」など,涙の粒を顔につけたまま,質問した。
「うん,すごく怖かったけど,みんな助けてくれたから,もう大丈夫!ありがとう!」と教頭先生が真剣な顔で言う。先生も演技が上手い。
私にしがみついていた女の子がようやく少し落ち着いて,手を離してくれたと思いきや,何と,どう言うわけか,鬼が戻って来た!
鬼の顔が見えただけで,園児たちは,また大泣きしてしまった。
鬼は,「心を入れ替えた。もう悪いことはしない。よくわかった。教えてくれてありがとう。」と話し,改心したことを子供たちにアピールをしていたのだが,泣きじゃくる子供たちは,鬼の話を聞いていなかった。それどころではなかった。
鬼が二度と子供を脅かしたりしないと約束してから,また退場した。いなくなって少しすると,子供たちがまた落ち着いた。
そしたら,園長先生が前に出て,園児たちに言った。
「今は,鬼をやっつけたけど,節分はまだ終わっていないから,今夜またみんなのお家にも鬼が来るかもしれない。でも,やっつけ方がわかっているから,怖くないね?大丈夫だね?」
これを聞くと,たちまちのうちに,園児たちがまた顔を真っ赤にして,号泣し出した。
一体,何回泣かせる気なんだろう?日本では,幼い子供に,こういう教育をするのだと開いた口が塞がらなかった。
子供は,今後鬼を見るたびに,幼稚園での怖い体験を思い出し,泣くに違いない。トラウマになっても,おかしくない。そう思った。
このイベントを町の全ての学校で開催していたようで,翌年からも,私が毎年同じ光景を見ることになったのだが,何回見ても,子供たちが可哀想で仕方がなかった。
学校によっては,鬼の衣装がちゃんとしていなくて,子供たちが最初から,「なんだ!〜ちゃんのお母さんだ!」と鬼の正体がバレている時もあったが,ほとんどは子供を泣かせて終わった。
私は,こうして,日本の「節分」という行事を知ったのだった。
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