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 生後一年経てば、大型犬は成犬並みの大きさになる。その状態で新しい飼い主を見つけるのは難しかったのかもしれない。 「俺さ、全然知らなくて。誰かの家で幸せにやってるもんだと思ってたんだ。親父は母さんに口止めされてたから今まで内緒にしてたって言うんだけど」  息子がいい大人になったからといって、それを暴露するのも配慮が足りぬように思える。 「どうせなら、ずっと騙しといてほしかったよ……」  東は涙声になって、店主の腹に顔を押し付けた。  可愛がっていた飼い犬の本当の行先を知り、ひどいショックを受けたのだろう。彼はそれで久しぶりに癒されに来たのだと、店主には分かった。  黒い懐紙に掻き出された彼の耳垢は、濡れて硬く凝り固まっていた。 「いつでもまた来てくださいね。私ならアレルギーは大丈夫みたいですから」  店主がそう言って耳掃除の終了を告げると、東は「うん、うん」と何度も頷き、最後に尻尾をぎゅっと抱きしめてから立ち上がった。 「店主さん、本日もありがとうございました」  スーツに着替えて革靴を履いた彼は、三和土で深々と頭を下げた。そして背筋を伸ばし、優秀なビジネスマンの顔に戻ってから、引き戸を開けて出ていった。
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