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俺と同じ中学生らしいざくろが、ひとりでこの山の上の神社に暮らして学校にもやってこないのは、多分その髪色も関係しているのだろう。
だから俺はそこには触れず、
「ほら、邪魔だからどっか隅いってろ。あとその穴の開いたスウェットからもうちょいまともなもんに着替えろ」
と掃除を始めた。実は昨夜割と大きめの地震があったから、古い本の山が倒れてきて窒息死してはいないかと心配していたんだけど、案の定、限りなく近い状態ではあった。
「……来るなって言ってるのに、なんでしょっちゅう来るかな……」
ざくろのぼやきを無視し、まず床に落ちている本に手を伸ばす。
なんつーの、和綴じ? ああいう、紙を糸で綴じたようなやつに、難しい字のやつばかりだ。一度好奇心から開いてみたことはあったけど、この村の名前、それから神社という文字がかろうじてわかっただけで、あとはさっぱりだった。ざくろはこれを全部読んでるってことは、頭はいいはず。
なまじ顔の造作も整っているから、普通なら気後れして近寄りがたいかもしれない。
でもざくろは、それ以外の人間らしいことがなにもできない。
たとえば、掃除とか。
俺は床に落ちている本をどんどん積み重ね、再び崩れてこない高さでいくつか山を作る。
「たまには外出ろよ。ここの階段とか上り下りしたら、そのひょろっとした体もちょっとはマシになるんじゃね?」
「……外には出ない」
だいたい予想していた答えなので、俺はめげない。掃除の手も止めない。
「じゃああれだ。今流行ってるやつ買おう。楽しいらしいぜ。スイッチと、リングなんとか。俺もやりたい」
返事はない。どうせ俺の言うことなどまともに取り合うのも面倒なのだろう。
いつもことなので俺もさほど深追いせず、ゴミ拾いにかかる。ほとんどが駄菓子の袋だ。
「おまえ、駄菓子ばっかり喰うなよな」
「貰うんだから仕方ない」とざくろは反論する。
「今度から張り紙しとくか。〈お供えは現金もしくはアマギフのみ〉」
「俗だな~」
浮世離れした外見に、おそろしくそぐわない。
「そしたら、おまえの欲しいなんとかが買えるだろ」
呟きに振り返ると、ざくろはもう俺に背を向けていた。適当に積み重ねられた服の山の中から、白いシャツをひっぱり出して羽織っている。
俺の話を、聞いていないようでちゃんと聞いている。俺が来るのを嫌そうにしながら、俺が喜ぶもののことを考えている。
ざくろにはそういうところがあって、俺は自然と笑顔になった。
「なんで来るかって言ったら、好きなんだよ。掃除して、おまえの世話を焼くのが」
照れ隠しなのか、ざくろはもうそっぽを向いて窓の外を見上げていた。
「適当にして帰れよ。雨がくる」
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