2264人が本棚に入れています
本棚に追加
/383ページ
「三浦先輩もモテてるの? 社内で?」
「噂では、牧瀬さんや尾崎さんの次に人気らしいよ」
「へー」
「那奈はやっぱりあの人しか興味ないんだね。片想いの彼」
「片想いって……そんなんじゃっ」
「あんなの片想いでしょ。那奈はその人の香りが忘れられないって言ってるけど、それも立派な片想いだと思うなぁ」
「でも私、顔知らないんだよ? それで片想いっていう?」
「初めは香りに惹かれてただけかも知れないけど、もう2年だよ。2年も探し続けてまだ香りを忘れてないんだよ」
「それは…元の香りの香水があるし」
「例え顔を見てたとしても、2年もすれば忘れるよ。元の香水があるからだとしても、那奈の想いは普通じゃないよ」
「やっぱり……変かな?」
「変っていうより、まるで初恋の人を探してるみたい。何度もその交差点に行ったりさ、その香りに会いたいっていうより、その人に会いたいんじゃないの?」
「…………そんな……こと……」
「ほんとは会いたいんだよね。その人に……」
「……うん」
凛の言葉が胸に刺さり、ズキンと痛む。
街で偶然会った人に、もう一度会えるなんて奇跡だ。
どんなに必死に香りを探しても、あの時のあの甘い香りが見つかる事はない。
あの香りは、あの人だけのもの。
本当はとっくに分かっていた。
香水はある。
けど、あの人がつける事であの香りは成立する。
私がずっと求めている香りは、あの人自身の香りなんだから。
その事に気づいた時、もう会えないんだと泣いた。
その事を彼女に見透かされて、言葉で改めて思い知らされる。
(私は彼に惹かれている。顔も知らない彼に……)
最初のコメントを投稿しよう!