出会い

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出会い

大学2年の春。 今日の講義を終え午後から友人と買い物に出かけた。 ランチをした後、お気に入りの店を見て回り、以前から欲しかったワンピースを買った。 大きな紙袋を持って、次の店へ向かっていると交差点が見えて来た。 歩行者信号は青。 友人と話しながら歩いていると、信号が点滅し始める。 「信号変わるよ! 那奈(なな)早くっ!」 友人が走り出し、私もその後を追いかける。 交差点に差し掛かった時、背後から走って来た人にぶつかられ、前のめりに倒れそうになる。 「あっ!」 声と同時に手が出て地面に手がつく寸前、右腕をスッと掴み引き起こしてくれた。 「えっ…誰?」 「いい匂い……ですね」 囁くような男性の声。 その声に顔を上げてももう姿がない。 その代わりにフワリと甘い香りが通り過ぎ、その香りを辿るとスーツ姿の男性が足早に信号を渡って行く。 「ありがとっ! !」 その背中に叫ぶようにお礼を言って、立ち上がり慌てて交差点から歩道に戻る。 歩行者の信号が赤になり、四車線の大きな道路(みち)を車が一斉に動き出す。 交差点の一番前でまた、信号が変わるのを待った。
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