第231186派遣部隊

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第231186派遣部隊

「そりゃあ、キ印認定されるか悪魔の子呼ばわりされて即人生終了だろ」 ヨハンは試験管を慎重にあぶりつつ否定した。ホムンクルスの胚を出身世界の家畜に似せる作業は骨が折れる。いやライフワークともいえる歳月を要した。 白髪は着実に後退しており前世の2倍も生きている。そして先日ようやく実用化の目途がついた。「でもおそ過ぎやしないかい」 パートナーは更年期をすぎてめっきり愚痴っぽくなった。キリっとした目鼻立ちに二人三脚で歩んだ歴史が否が応でも刻まれている。ここ十年ほどは寝室で日常の大半を過ごしている。八人目の孫娘が二日おきに訪問してくれてはいるが片道三時間の距離は臨月の妊婦には辛い。それを知ってヨハンは人生計画を大幅に修正した。本来ならば一夜限りのミッションだった。サクッと片づけてお台場の空から降り立ち友人知人の喝さいを浴びながら入籍を済ませ富士山でご来光を拝む予定だった。任務が人生の課題になった理由は抵抗勢力の妨害だ。特にエルフ庄の頑張りはヨハンの進路を大幅に狂わせた。 「一回こっきりで終わらたい。もうあと何回も失敗できないからな。『巻き戻し』に連中は耐性をつけはじめている」 ヨハンは憎々しげに先達の敗退をあげつらった。根強い土着信仰を突き崩そうと上層部は物量作戦を続けている。荒波を砲撃するようなものだ、とヤコブレフは言い残した。もう十二年も前の惨劇だ。鮮明に覚えている。家庭用のツリーに腹を貫かれて戦友は死んだ。赤づくめのフェイクファーがどす黒い静脈血に染まっていく。 「どうやら俺は天国に嫌われたようだ。セイント何某を名乗りながら滑稽な最期だな。どうせなら磔になったあの人の様に…」 ヨハンは涙を振り払った。「バカ…十字架を背負うのは俺だけで沢山だ」 その言葉を胸に記し今日まで慎重に準備を進めている。ヨハンは肝に銘じる。失敗は許されない。 今夜こそ聖ニクラウスを全うするのだ。
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