聖夜戦争、その果てに…

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聖夜戦争、その果てに…

「ロザリアの班がやられた!」 「煙突が!火が!うわー!」 「大切なプレゼントが焼けちゃう」 「バカ!積み荷は諦めろ。命あっての物種だ」 「アタシはこの仕事が命なの!」 「そうよ。早く配り終えて転生を…」 「風上に逃げるな。罠が…ぐはあっつ」 「風下にも待ち伏せかよ」 「どうしよう!囲まれたわ」 阿鼻叫喚がヨハンの脳裏を駆け巡っていた。ここまでは想定内だ。どんなに馴染ませようと如何に異世界色を払拭しようと現地の素材を使って一から再構築しようとあの手この手を頑として撥ねつけるアレルギーがある。 それがこの世界の厳しさだ。ヨハンの魂を拾った転生神たちは数多の世界に与太者を送り込んで霊性の進化を促してきた。その崇高を執拗に阻む世界がある。転生神たちもまた造物主から進化の課題を授かっている。ノルマ未達のペナルティは堕落だ。それゆえに彼らは知恵を絞った。恵まれない弱者に無償の愛を神の聖名において提供する。これほどの高潔があろうか。彼らはますます燃えた。意地でもサンタクロースを普及してやる。 「その驕りこそが敗因だ」 ヨハンは冷静に分析した。そして奇策に出た。爆発炎上する村はずれに彼は降臨した。ハロンが子供達を指揮している。 「ガーシュ」 ヨハンは猟師親子に呼びかけた。「お前はッ!?」 怯む父親の足元に宝飾品を投げ与える。「これだよ!僕の欲しかったもの」 反射的に息子が拾い上げる。 「馬鹿ッ、それは女の子の装身具だぞ」 ガーシュが咄嗟に没収し平手打ちを食らわす。 「お父さんのバカ。だから僕は嫌だったんだ。臭い鳥小屋の掃除も我慢した。でもサンタさんが…いやお父さんがくれたのは野蛮なロングボウだ」 涙ぐむ子をなおも父は責める。「弓はエルフの命だぞ。男が狩りをしなくてどうやって妻子を食わす」 「でもお嫁さんが先だよね!返してよ!ロビンのお誕生日プレゼント」 「25日の夜に生まれた鬼子なぞ…!」 「僕知ってるよ。ロビンのパパを。りゃくだつこん」 そう言い放ち睨みつける。絶句するハロン。 「紹介したのはお父さんだよね」 「何を言うかこの野郎!」 ガーシュが宝飾品で息子の目玉を潰そうとした瞬間、火球が膨らんだ。 灰燼に帰す姿が息子の瞳に焼き付く。 「もう判っただろう君たちの欲しいものが」 ヨハンが後ずさる大人たちをよそ眼に問いかける。 「サンタだ!生き残りがいるぞ」 ハロンが腕利きの射手を招集して戻ってきた。雨あられと矢がヨハンに降り注ぐ。子供達にも。しかし全て素通りする。 「なっ?!—」 ハロン達は戸惑うがすぐムキになって激しく射かけた。 ………←←←「こっちだよ~」 斜め右上から嬌声が降ってきた。見上げると大勢の子供達がトナカイの背や橇に乗って宙を駆けている。しかしその姿はすぐにハロンの視界から消えた。 代わりにサンタクロースの集団がどこからともなくワラワラと湧いてくる。 「殺せ殺せー!」 「何をしている!あっちに出たぞ」 エルフ庄の大人達は互いに罵り合い無数の火矢を交換した。 ◇ ◇ ◇ 「貴様っ! う、裏切るのか」 青く澄み渡った冬の空に神々のわななきが響いている。 赤いほっぺの子供達、その傍らにヨハン。背後に焼野原が広がっている。そして死んだはずのサンタクロースたちが居並ぶ。
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