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主よ、永遠の安らぎを彼に与えたまえ。
その礼拝堂は治療養院の中庭の片隅に建てられたが故に小さく、狭かった。
ここで捧げられる祈りの大半は病人の心の平安よりも、その魂が御国へと至らんとすることを希うものだった。
それでもこの御堂を預かる司祭のイーデンにとっては、護るべき大切な『祈りの家』だった。
先ほど運び込まれたばかりの新しい棺は実に質素だった。
大小様ざまな板切れをかろうじて長方形に継ぎ合わせただけの粗雑な作りが、イーデンにも見て取れた。
しょせんは新たな命を得るまでの、仮初めの褥にしか過ぎない――。
どんなに頑丈な殻を持つ卵でも割られるために在るのだと、イーデンは信じて疑わない。
棺の蓋は顔を覗く小窓など設えられていない、ただの木の板だった。
それをずらして、顔を姿を露わにした男の名前をイーデンは思わず呼ぶ。
「ハイド・・・・・・」
彼と最後に別れてからどれくらいの時が経ち、又流れたことだろうか。
イーデンはふと振り返ってみる。
あれはけして互いに名残を惜しみ、再会を誓い合うような真っ当な別れ方ではなかった。
あの時のハイドには自分の生き死にすら定かではなかったはずだと、イーデンは考えている。
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