66人が本棚に入れています
本棚に追加
/717ページ
「大きなせんぱーい、私たち野球部入りますねー」
「ええ……ほんとに入るの?」
姉妹それぞれが別の相手に向けて返答する。咲希は怜に向けて話して、真希は咲希に向かって話している。
怜は大きな先輩と呼ばれて、そう言えばまだ自分の名前を名乗っていないことに気が付いた。おそらくこの大きなというのは学年とか年齢が大きいという意味ではなく、身長的な意味なのだろうと苦笑する。
「わたくしには春原怜っていう名前があるのですから大きな先輩呼びは止めてくださいます?」
「じゃあ苗字呼びだと理事長さんと被ってややこしいので怜先輩って呼びまーす」
「理事長の名前なんてよく覚えてますわね?」
「常識ですよー」
常識なのだろうか、と怜は思った。掴みどころのない咲希ならば怜が理事長の娘と知ったうえで、怜に自分たちを見つけさせようとしたのではないか、と変な勘ぐりをしてしまう。
もっとも知っていようが知っていまいがそんなことはどうでもいい。とにかくこれで、昨日華菜と約束した野球部設立に必要な条件は満たした。
「これで華菜さんとの約束は果たせましたわね」
怜は微笑んだ。
しかし、咲希から受け取った『籠の外が見てみたい』のメッセージについては結局何もわからないまま。それもそのうち聞かなければならない。
そんなことを考えながらチラリと見た咲希の顔はなんだか少しだけ本心を映した笑みのように感じられたから、一応野球部に入れたのは正解の選択肢だったのだろう、と怜は思うことにした。
最初のコメントを投稿しよう!