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由里香のことを熱心に探している新入生との会話を終えた生徒会長の城河桜子は生徒会室に戻る道すがら静かな廊下を歩きながら、一人考えを巡らせていた。
「あの子、多分小峰華菜ですよね……」
華菜が由里香のことを未だに強く意識しているということは何を意味するのだろうか。少なくとも由里香の中の野球と離れた平穏な時間に何らかの動きが生じることは間違いない。
もしかしたら小峰華菜の執念次第では由里香がもう一度マウンドに立つ姿が見られるのでは……そんなことを考えてしまい苦笑する。
仮に彼女が由里香のことをマウンドに戻そうと考えても野球部のないこの学校でどうやってマウンドに立たせるというのだろうか。
そして自身の立場上、華菜が由里香をマウンドに立たせようとするとき、間違いなく敵対する立場の人物として会わなければならない。由里香をマウンドに立たせる時に一番の障害となるのはきっと桜子自身なのである。
だが、そんな起きうる可能性の低い未来を想像しても仕方がない。
桜子は彼女の中に渦巻く複雑に絡まり合った感情を振りほどくように頭を振った。
「私は目の前の仕事を片付けていくだけですから……さて、続きの書類整理でも致しましょうか。」
桜子は生徒会室へと入っていった。
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