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第2話 湊由里香との再会
「いざ、2年3組へ!」
教室に入る前に華菜は大きく深呼吸した。
今日は入学式の日とは違い、教室にも廊下にも人がたくさんいる。廊下は人と声でにぎわっているが、その賑やかな音は緊張感を持った華菜の耳には届いていない。
これから湊由里香と再会するのである。試合に負けてからスマホを介しての連絡は取っていたが、実際に会うのはあの試合の日以来である。
ついに会えるのだ。あの日負けてから1年半追い続けてきた湊由里香と。
「よし」と小声で呟き勢いよく教室のドアを開けると教室内にいる子たちの視線が一気に華菜に集まったが、華菜の視線は窓際に立ってどこか遠くを見ているスラリと背の高い由里香だけを捉えていた。その他の教室にいる無関係な人たちに気を向けている余裕はない。
心臓の鼓動が教室に入る前の倍くらいのペースになる。
教室内で頭一つ高い、モデルみたいなスタイルの由里香は目立つ。日差しを受けて少し眩しそうに外を見る様子が映えていた。
久しぶりに見た彼女は当時に比べてほっそりとしていた。知り合いの記者の黒井から聞いた通り、本当に野球を辞めてしまっていることが立ち姿からもよくわかる。再会の喜びと本当に野球から離れているという事実を確認した悲しみとが入り混じる。
だけど、これからマウンドに戻ってもらうために説得するのだから悲しんでいる暇はない。
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