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<1・たにんごと。>
『次のニュースです。またしても、悲劇が起きてしまいました……』
女性のニュースキャスターが、やや悲痛な表情を作ってニュースを読み上げる。小学生であった湯浅いちごは、その時居間でポテトチップスを食べながらぼんやり母と一緒にテレビを見ていた。
『●●容疑者は、“自分は悪くない、フェロモンに誘われた不可抗力だ”と供述していること。被害にあったオメガの男性は、今も意識不明の重体で入院しているとのことです。……本日は、バース性を専門で研究している、××大学の坂本教授にお越し頂きました。坂本さん、本日はどうぞよろしくお願いいたします』
『よろしくお願いいたします』
『早速ですが、ご意見を伺ってもよろしいでしょうか?』
ばーすせい。
今までにも何度か、その用語を耳にしたことはある。そういえば、友人のお父さんがアルファだったとか、自分達はベータだから安心ねとか――ちょこちょことそんな会話を聞いたことがあったような、なかったような。私は何気なく、ねえお母さん、と尋ねたのである。
「お母さん、バース性ってなんなの?なんか、最近は友達の間でも、お兄さんお姉さんがアルファだとかベータだとかオメガだとか、そういうこと話してる人がいるんだけど。それって、男女の性別とは違うものなの?」
「んー……」
母は確かその時、夕食の準備をしていたはずだ。私の言葉を、どのような気持ちで聞いていたのだろうか。その時の私と同じように、あくまで他人事という認識であったのかもしれない。何故ならお父さんとお母さんはベータで、私はまだ幼いのでバース性検査を終えていなかった。それでも、二人は私のこともベータだろうと普通に思っていたに違いない。ベータ同士の夫婦の場合、同じくベータが生まれる確率の方が圧倒的に高いのだから。
「男女とは別に、他にも性別があるのよ。お母さん達が子供の頃に発見されたばっかりのものだから、まだ世間では意識が低い人も多いみたいだけど。そちらの性別を優先して子供を作ると、優れた子供ができるから……男女性よりそっちを優先する人が多いなんて話も聞くわね」
「どういうこと?」
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