博士が愛した依存

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将暉(まさき)ー。朝だよ、今日は大事な会見があるんじゃないの?」 俺はゆっくりと重たい目蓋を開けると、隣では真白が僕の顔を見て、少しムッとした顔をしている。俺は数回瞬きをしてから、横になったまま体を伸ばした。 「今、何時?」 まだ眠たい声で言うと、真白が「8時」と言う。その言葉を聞いて、俺は目が一気に覚めた。それから、ゾッと寒気がする。後30分もしないで、会議が始まってしまう。 「遅刻だ!」 俺は急いでベッドから下りると、洗面台へと行き、高速で髭を剃って、髪を整えて、歯を磨いて、顔を洗う。その慌てふためく俺の後ろ姿を、真白がくすくす笑いながら眺めていた。 「もう、何でもっと早くに起こしてくれなかったの!?」 「何度も起こしたよ。起きない方が悪い」 真白の言っていることは正論だ。俺はしゅんとすると、大きな足音を立てて、部屋に戻った。ダブルベッドの脇に、皺ひとつなくハンガーに掛けられたスーツを乱暴に取って、久しぶりのワイシャツに腕を通す。クリーニングしたての香りが、鼻をくすぐった。 時計を見ると、もう10分も過ぎている。 俺は急いでリビングへ行って、冷蔵庫から昨日作り置きしておいた、朝ご飯を持って、椅子に座った。 「朝ご飯食べてる時間なんてあるの?」 真白が俺の横に立つと、俺は食卓に並べられた朝ご飯を一気かき入れる。真白が作ったご飯には勝てないが、俺の料理センスも、大分上がって来たと思う。 「走って、会社に行くから、大丈夫」 もぐもぐと口を動かしながら、箸で摘まんだ食材を口に運ぶ。リスのように俺が食べ物を頬張る姿を見て、真白がまたくすくすと笑った。その左手の薬指には俺が、5年前に上げた指輪が輝いている。 その指輪を見ると、結婚したんだな、と改めて認識する。5年も月日が経っているのに、真白は俺がプロポーズをした日と、綺麗だ。 そんなことを思っているから、周りから惚気だとかと言われるのだが。 「ごちそうさまっ!」 俺はまだ口の中に入った食材をもぐもぐと歯で噛み砕きながら、食器を洗面台に運ぶ。食器を水に浸け、鞄を持って靴を履いた。 「行ってらっしゃい」 「行ってきます」 そう真白に言って、俺は家を出た。
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