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「ただいまー」
「お帰り」
真白が笑顔で俺を出迎えると、俺は微笑んで、靴を脱いだ。後ろから真白が付いてきて、「どうだった?」と聞いてくる。俺は窮屈なスーツを脱ぎ捨てると、ハンガーに掛ける。
「ギリ間に合った」
「柳楽くんに迷惑かけてない?」
「んー、かけたかも」
「こらっ」
真白がムッとすると、俺はへらへら笑いながら洗面台へと向かう。ワックスで固めていた髪を水で解すと、何だかさっぱりした気分になった。
「将暉の会見、見たよ。凄いじゃん、全国放送」
「まぁね」
「さっすが、天才博士~」
真白が俺をニヤニヤしながら見ると、俺は「からかうなよ」とけらけら笑いながら横を通る。真白は俺の後ろ姿も、ずっとニヤニヤしながら見ていると、俺は「見過ぎ」と言った。
「いやぁ、カッコいい旦那様に出会えて、幸せです」
「……照れるんだけど」
「あれ、お返しは言ってくれないの?」
「お返し目当てなの!?」
「当ったり前じゃん」
真白がけらけら笑って、俺と一緒に冷蔵庫の前に立つと、俺はしばらく無言でいる。それから冷蔵庫を開けて、昨日作り置きした夕飯を取り出すと、食卓へと持って行った。
「あれれ、旦那様、言ってくれないんですかぁ?」
俺は椅子に座ると、真白が俺の目の前の椅子に座ってニヤニヤしながら、夕飯を食べ始めた俺の姿を見る。
「俺も……可愛い奥さんに出会えて、幸せだよ」
「ひゃー、若返ったみたい!」
真白がはしゃぐと、俺は「おい、あんまはしゃぐな」と注意する。俺は頬を真っ赤に染めて、夕飯を口に運ぶと、真白がニヤニヤしながら俺を見続ける。
「美味しい?」
真白が俺が食べてる夕飯を見て、俺に聞く。俺はしばらく溜めてから、もう既に出ている答えを口にした。
「真白の料理にはやっぱり敵わない」
「でしょー。だって、花嫁修業、いっぱいしたもーん」
真白が嬉しそうに声を弾ませて言うと、俺は隣で「知ってる」と言って箸を進める。
「特にオムライスとか」
「何であんなにふわふわになるの? 俺、レシピ通りにやってもそうならないんだけど」
「まぁ、それは……愛情?」
真白が恥ずかしい台詞を何食わぬ顔で言うと、俺は表情筋を強張らせる。それから、ため息を吐いて食材を口に運んだ。
やっぱり、真白には敵わないな。少し潤んだ瞳を、俺は真白に見えないようにしながら何食わぬ様子で夕飯を食べ続ける。
最近、涙腺が脆いからそのせいだろう。真白からの愛情表現をされると、胸がぐっとなる。俺も歳を取ったもんだな。
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