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無死感人の休日
今日は初の休日だ。無死感という、人間とは違う点を持っている私は、友達がいない。他の無死感人とは仲良くしているが、知り合いレベルだ。
あるとき、お腹がぐぅと鳴った。これは体が栄養を求めているサインだ。食堂でいつもはざるうどんを食べるが、今日は違ったものを食べてみよう。なにせ休日なのだから。
カウンターで調理師に、ラーメンを注文してみた。塩だ。
ドリンクサーバーで麦茶をつぎ、歩き回り、やっと見つけた席で、ラーメンが出来るのを待った。
しばらくすると調理師に呼ばれ、ラーメンを取りに行った。おぼんの上のラーメンは、湯気をたてて、食べられるのを待っていた。
席につき、割り箸を取り、ラーメンを食べ始めた。
ズルズル、ズルズル、塩の味だ。さっぱりしている。今度は醤油ラーメンも頼んでみようか。
そんなことを考えていると、前から声が聞こえた。無死感人である私に話しかける人はほぼいないので、最初は自分にかけられた言葉だとは思っていなかった。しかし、あまりにもしつこかったので、チラッと声の主の方を見ると、その目は私を見据えていた。
「やっと気付いたか。前、座っていいか?」
「うん...どうぞ」
「ありがとさんっと」
これはチャンスだ。無死感人の私が、普通の人間と会話する機会が訪れた。ここを逃したら、私は一生、一人だ。
「あの、えっと...」
「ん?なんだ?」
その男は、ざるうどんをすすりながらこちらを向いた。
「ざ、ざるうどん好きなんですか?」
「いや、別に。今日は初の休日だから、豚骨ラーメン以外の物を食ってみようと思ってな」
意外な共通点を発見。会話の接続に移行する。
「私もそうなんです。ざるうどん好きで、今日が初の休日なので、塩ラーメン食べてみようかな、と...」
「へえ、じゃあ逆だな」
相手の笑顔を確認。好感度上昇中。
「そ、そうですね、ハハ」
それから話は弾み、かなり打ち解けた。双方、麺がなくなる程の長話である。
「なあ、お前、初の休日ってことは、俺と同じ期の訓練を受けたよな」
「そうですね」
「俺な、あのデッド討伐の時に、デッドに重症を負わされたんだ。それでゴミの山に埋もれてな...」
それを聞いた瞬間、あのシーンが脳内再生された。その時のことを話そうとすると、先に相手が喋り始めた。
「でもな、たまたまデッドが俺のことを見失って、助かったんだ」
その時、いろいろな感情が溢れた。本当のことを言いたいという歯がゆさ。勘違いをしているという怒り。それよりなにより、生きていてくれたという嬉しさ。
それらの感情が混ざりあった結果、真実は伝えないということになった。
「へえ、すごいね...」
「だろ?...さて、食い終わったから、俺はもう行くかな」
その男は、自分のおぼんを持って、席をたった。しかし、なんとしてでもこれだけは聞いておきたい。
「あの、名前は?」
男は振り返り、私の目をまっすぐ見た。
「俺は、伊木 桜牙だ」
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