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辻の真実
「デッドの、なんだ?言ってみろ」
辻は呆然としていた。
「あの夜、俺の細胞を奪っただろう?」
「......うん」
「風間に頼まれてか」
「...うん」
下唇を噛んでいる辻の顔は、とても暗かった。
「そうか、それだけわかればいい。じゃあな」
「うん...」
この話を切り出してから、辻の『うん』以外の言葉を、伊木は聞けなかった。
-数年後-
訓練生達はおよそ20代、晴れてスターポリスになった。まだ星は一つだが、一人前になるために命をかけて戦うのだ。
伊木は、食堂でそう決意した。
「へっ、最初の試験では負けちまったが、これからは俺がお前を追い越すぜ」
話しかけてきたのは、有野が担当した最初の持久走で二着だった者だ。名前は川瀬 一輝(カワセ イツキ)。チャラチャラしていて、なんだか思考が薄いというか、バカというか。そんな感じがする。
「どうぞご勝手に。俺は俺のペースでいく。まあ、それにも追い付けなかったら、お前はノミ以下だな」
「はあ?!んだとこの!!」
「ね、ねえやめなよ。すみません」
こいつは三着だった五十嵐 恵真(イガラシ エマ)。一輝と一緒にいる所をよく見かける。
「ああ、君が謝ることはない。そのアホが突っかかってきただけだからな」
「アホ?!てめえいい加減にしろよ!!」
その直後、右肩に強い衝撃がきて、伊木の視界が一回転した。一輝に蹴られたようだ。
「ちょ、一輝くん!相手は怪我人だよ?」
「恵真は、静かにしてろ。おい!お前!!俺をバカにしたら許さねえぞ!!次はマジで容赦しねえからな!」
そのとき、伊木はデッドのことが頭に浮かんだ。あの恐ろしい姿を。
「おいお前ら、デッド知ってるよな?」
すると一輝は振り返り、尻餅をついている伊木を見下した。
「は?討伐の時に聞いたわ、で、なんだよ」
「見たことはあるか?」
伊木がそういうと、一輝はめんどくさそうに答えた。
「ねえよ、もういいだろ」
「あいつらの恐ろしさを経験したら、こんな事では怒らなくなるぞ」
その話をした瞬間、顔を伏せ始める者がいた。中には、泣いている者も。そいつらは、『経験したやつら』ということだ。
「は?そりゃどういう」
「ま、スターポリスになったんだ。そのうち会うことがあるだろう。それまでに挨拶の練習でもしとくんだな」
「あ?そんなデッドなんてやつ、俺にかかれば一発だぜ?ビビらせようとしても無駄だからな」
一輝は恵真を連れて、どこかに行ってしまった。
「一発で済めばいいな」
そう呟いた伊木の声は、一輝には聞こえなかった。
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