第0話 ちょっぴりプロローグ

1/1
72人が本棚に入れています
本棚に追加
/117ページ

第0話 ちょっぴりプロローグ

「チック! 撃て!」  遠くの地面に向かって叫んだ。小さな赤いサソリ。名はチック。おれの仲間だ。  夜の闇に光の筋が走った。その筋は対峙(たいじ)するトカゲのような馬の首に刺さる。  じろり、と不気味な黄色い目がこっちを見た。 「効いてねえのかよ!」  おれは「メイル」と呼ばれる細い剣を抜いた。こんなバケモノが、なんでクソ田舎に? どう見たってバケモノ級だ。今まで倒してきたモンスターとケタが違う。  トカゲ馬が、ゆっくりと近づいてきた。おれもゆっくり下がる。うしろから(うな)り声がした。新たな敵ではない。さっき仲間になったノラ犬だ。  おれはレベルも低い。魔法も使えない。おまけに仲間はサソリと犬。泣けるぜ!  隣家の物陰から、こちらをのぞく人の姿が見えた。このあたりに勇者や戦士は住んでいない。戦えるのは、おれだけ。やるしかねえぞ。  剣の(つか)を強く握りなおした。  その昔、文句を言いながら毎日残業していたころが(なつ)かしい。まさか、あの日から、こんなことになるとは……
/117ページ

最初のコメントを投稿しよう!