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第9話 あこがれの武器屋
体感時間なので適当だが、二時間ほどで土庄の港町に着いた。
いや、これは土庄町ではない。
現実の土庄町は、フェリーの発着場だ。小豆島の中心的な町ではある。ただ、一昔前の熱海みたいなもんで、灰色に汚れた古いコンクリートが並ぶ、さびれた街だった。
そんなさびれた面影はどこにもない。真っ白な漆喰に塗られた小さな建物が密集していた。
街の大通りは石畳で造られていて、その上を馬車が走った。ところどころに街路樹や噴水もあり、ギリシャあたりの港町を思わせる。
瀬戸内海のキャッチコピーは「日本のエーゲ海」と言う。地元民からすると恥ずかしい限りなんだが、それがどうだ? ほんとにそうなっちゃってる。
通りを歩く街人も多く、露店も出ていて賑やかだ。
さて、ギルドに行く前に装備を整えないといけない。そのためには、お金が要る。両替所に向かった。
両替所は香川銀行小豆島支店のあった場所だ。すぐにわかった。
建物の大きさは現実と同じだったが、やはり造りが違う。石造りの中世風になっていた。
中に入ると木のベンチが並び、その前に木の長いカウンターがあった。現実の銀行と同じような雰囲気だ。ただ、窓口の人間が違う。ゲームの中なので、全員が中世ヨーロッパ風の外人。
見た目が日本人ではないというのは、やっぱり話しかけずらいな。
窓口の一つが空いていたので行ってみる。栗毛色の髪と目をした青年に、話しかけてみた。
「水晶をお金に変えたいのですが」
窓口の青年は「どうぞ」と言い、小さな木箱を出した。この中に入れろってことだな。
おれは、リュックから水晶のカケラを出し木箱に入れた。青年は、その木箱を後ろの職員に渡す。
その職員は、宝石商が持つルーペのような物で水晶を調べた。それが終わると、次の人に渡される。次の人は天秤に乗せて重さを測った。
これ、街人の動きがすげーリアル。街人や村人はAIが操作しているはずだ。AI技術って、すげえ進んでいるんだな。
ただ、リアルすぎて時間がかかる。十五分ほど待たされて、やっと、お金がやってきた。
水晶は324個あったらしい。銅貨324枚が手に入った。
銅貨は十円玉程度の大きさで、丸ではなく四角い。それが300枚以上となると、かなりの重さになった。
サービスでもらった麻の袋に詰め込み、リュックに入れた。背負うと背中がずっしりくる。これは早く使ってしまおう。
両替所を出て、武器屋を探すことにした。背中は重いが、足取りは軽い。
おれが「武器屋」に行くとはね。なんとも心が躍る。ハワイでガンショップに行った時に心は踊らなかったが、今は違う。やっぱり「剣」とか「弓」って、男のロマンだよな。
そんなことを思っていたら、戦士と思われる装備で身を固めた美女とすれ違った。
おお! まるでジャンヌ・ダルク! 彼女に「フォローミー!」って言われて、思わず付いていったフランス軍の気持ちがよくわかる。
なるほど。言い直そう。剣ってのは「男女」ともにロマンがある。
石畳の道を歩いていくと、武器屋も何軒か、すぐに見つかった。
大きな店もいいが、こじんまりした一つの店が気になる。木の看板に剣の絵が描かれていた。薄汚れた窓から店内をのぞく。
店内は、うちの近所のよろず屋、つまりコンビニの半分ぐらいの狭さだった。狭いが剣や槍、弓だけでなく鎖のついた鉄球など個性的な武器もある。
店に入ると、目の前の棚にナイフがあった。ナイフを手に取って考える。これが今、もっとも正しい選択だろうか。
デフナッシーは小さい。あの小さな相手に、小さなナイフで立ち向かうというのも面倒な気がする。
店の奥にカウンターがあった。店主らしき男と目が合う。髪は短くボサボサ。モミアゲと繋がったアゴヒゲをたくわえた強面の男だった。
見るからに苦手なタイプ。だが、いかにも武器屋の店主、という感じで店には似合っていた。
店主に会釈をし、武器を見てまわる。剣が置かれた棚に、ひときわ目立つように展示された剣があった。
青銅の剣:1,000G
このへんを持つのが最初の目標になるのかなぁ。氷屋の依頼が50Gだから、まだまだ先の話になりそうだ。
棚の隅に、ほこりを被った木の棒があった。調べてみる。
名前:棍棒(こんぼう)
効果:攻撃力+20
価格:60G
特殊効果:杖の代わりにもなる
おお、棍棒! なんだか懐かしい。
最近のRPGでは「デスペナルティ」みたいな、かっちょええ名前の武器が多いから、逆に新鮮。
ええんでない、これで。ナイフと同じ攻撃力だし。この大きな棍棒で、どっかんどっかん叩いたほうが、フナムシに効きそう。
それにナイフに比べ40Gも安い。330G持っているが、現実世界で言えば、しょせん三万三千円だ。倹約しないと。
棍棒を買って店を出る。会計時に余計な出費があった。肩から下げる革製のケースが10Gした。はだかで持ち歩くのも不便なので買う。
よし! これで依頼を受ける準備はできた。
いよいよRPGといえばこれでしょう。ギルドに行くぞ!
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