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第11話 オリーブン城を甘く見てた
「小豆島町片城」と「城」がつく地名に役場がある。偶然にも、そこがオリーブン城らしい。
おれは馬車に揺られ、海沿いの道を進み、いくつかの集落を抜けた。自動車なら二十分程度の道。それがもう二時間は揺られている。
そろそろ東の街が見えるだろうと、前方に目を凝らして、たまげた。街ではない。見えたのは壁だ。長い長い壁に囲まれた街だった。
5mはありそうな高い城壁。大きな四角い岩を積み上げた立派な壁だ。
このゲームは現実世界の情報を元に作られている。なので小豆島なんて大した物はないと思っていた。なかなかどうして、一気に中世へタイムスリップした気分じゃないか!
石造り。ある意味、このアレンジは正しい。ここ小豆島は昔から石の採掘で有名な島だ。あの大阪城の石垣も、この島から切り出した石が使われている。
現実の小豆島でも島の北側を走れば、山が真っ二つになったような採石場を見つけることができる。そんな石の島の情報をAIはアレンジしたらしい。
5mはある高い城壁の門をくぐると、石造りの街並みが広がっていた。
オリーブン城の城下町だ。
街は市場があってにぎやかだ。野菜や果物を売る露店が、ひしめき合っている。
活気あふれる街を進むと、お堀があり、橋を渡るとオリーブン城だった。石を積み上げて造られた大きな城は、イギリスのエディンバラ城みたいだ。小豆島役場の面影なんてない。
「冒険者の申請って、どこに行けばいいんでしょうか?」
城の入口にいた甲冑を来た人に聞いてみる。ぴくりとも反応なし。門番は道案内してくれないようだ。
城に入ると大広間があり、中央に総合案内のような窓口があった。その窓口に聞くと「住民局」という所でできるようだ。
その他、この城には「魔法局」や「政治局」があるらしい。
王様はいるのだろうか? 現実世界では王様を見ることなんてない。試しに聞いてみた。
「王様には会うことって、できるんですか?」
窓口の女性は、けげんな顔をした。
「議長のことでしょうか? 謁見の申請はできますが、平民の方ですと、ちょっと」
おれの服装をちらりと見る。
なるほど。「議長」ってことは、一応は民主主義なんだな。でも「平民」というキーワードがあるってことは、身分の階級があるようだ。
「ああ、いいんです。聞いてみただけです」
おれはそう言って、教えてもらった住民局に向かった。
大きな柱ごとに鎧に身を包んだ騎士がいる。手には槍。城の守備兵だな。あの騎士の鎧はいくらするんだろうか? 所持金千円だから、値段が気になる。
さて、住民局の窓口で、冒険者申請だ。
手続きは簡単なもので、名前、年齢、職業を羊皮紙に記入するだけだった。窓口のおねえちゃんは、革をなめして作ったバッジのような物をくれた。
緑色に染められた革に、オリーブの実を模した焼印が押されてある。これがオリーブン共和国の紋章なら、岡山は、ぜったい桃だな。香川はどうなるんだ? うどん?
「パーティー申請もされますか?」
「パーティー申請?」
思わず聞き返した。それも申請がいるのか。なんとも、お役所的な面倒さ。
ただし、ここで重要なこともわかった。パーティー申請ができるのは勇者だけ。こういう縛りがあるのか。
ゲームの開始時刻に間に合うよう急いでたから、職業なんて選ぶ時間がなかった。そのまま勇者でスタートしたのだが、案外、それで正解なのかもしれない。
とりあえずパーティー申請は要らないので、冒険者証だけもらった。
やれやれ。これでやっとギルドを使える。西の街にもどるとするか。これ、昔のRPGなら「おつかいイベント」と呼ばれるやつだ。
洞窟のカギを手に入れるために村をたずねたら、村長は水の神殿にいて、そこまでの船が必要だからさらに隣の漁村に行って……と、やたらとフィールドを歩かされる。
ただ、この世界は歩きまわっても魔物と遭遇するわけではない。そこだけはメリットか。
そんなことを考えながら、おれは馬車停から西行きの馬車に乗り込んだ。
まあ1G、100円で二時間、馬車に揺られるってのもいいもんか。現実世界の動物園なら5分で500円は取るだろう。
のんびり行こう。遠のいていく市場の雑踏を眺めながら、おれはそう考えなおすことにした。
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