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第1話 残業してる場合じゃねえ
今日だけは、早く帰りたかった。
会社の時計をちらっと見る。21時か。やばいな。24時から外せない用事がある。
「ラスティ・アース」というゲームのテストプレーヤーに選ばれた。来年開始予定のヴァーチャルゲームだ。全世界で限定千人。その試作機が今日届く。開始が24時ぴったり。
ゲームなんて久しぶりだ。ひょっとすると10年ぶりぐらいかも。たまたまネットでテストプレーヤー募集という公告を見て、応募した。まさかそれが当たるとは。
「なんだ、ゲームか」という感想は、さきほど上司からいただいた。
そうなんだけど、この通信型RPGは今までと、ちょっと違う。元になる世界データがグーグル・マップやウィキペディアだ。
WEB上ある膨大なデータをAIが読み込み、中世の世界にアレンジ! という前代未聞の大規模なフィールドがウリである。
開発は日本、アメリカ、フランス、ドイツの大手ゲームメーカーが集結。「最終最後のMMO」というのが宣伝文句。
MMORPGというのは、ゲームをしない人にとっては「なんだそりゃ?」って単語。ネットを使った多人数参加型のRPG。
おじいちゃん世代の人に説明する時は「ドラクエのゲームに他人も歩いてる感じだよ」って言えば、結構わかってもらえる。
さて、とりあえず、残業を終わらせないと。会社を出て家まで30分かかる。でも、クロネコの集配所に寄って荷物を受け取る。プラス30分かかると見ていい。
猛烈に急いだ結果、けっきょく、一時間かかってしまった。
駐車場に出て、三階建ての社屋を振り返る。
おれの会社は、しがない広告会社だ。しがない分、薄利多売。残業は当たり前になっていた。ため息を付き、車に乗り込む。
クロネコの集配所に車を飛ばした。
集配所に着いて事務所に駆けこむ。スマホの不在者票を見せて、荷物を受け取った。
家までの途中にコンビニをいくつか通りすぎたが、がまんした。ここで晩飯を買っていたら遅くなる。とりあえずスタートして、ちょっと遊んでからでもいいだろう。
ゲームスタートのカウントダウンを全世界の人と共有したい。
大急ぎで帰るぞ!
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