第2話 ゲームスタート

1/1
前へ
/117ページ
次へ

第2話 ゲームスタート

 家に着くと22時45分。  ゲーム開始は24時。まだ大丈夫。一時間以上ある。二階にある自分の部屋に駆け上がった。  ヴァーチャルキットの箱を開ける。PCへの接続を始めた。一ヶ月前に、説明書は送られてきている。今さら見なくても接続できた。接続してPCの電源を入れる。  あとはソフトのインストールだ。このソフトのインストールが思いのほか、時間がかかった。全世界のテストプレーヤーがダウンロードしているからかもしれない。  イライラしながら待った。時計を見る。  23時55分! たのむ、早くしてくれ!  終わった!  あわててマウントディプレイをかぶる。何も見えない。なんでだ?  ああ! 前後ろが逆か!  かぶりなおす。目の前にカウントダウンの文字。おっしゃ!  カウントダウンは今、48。  ああ、忘れてた! グローブだ。両手に画面操作をするためのパワーグローブがいる。ディスプレイを一度脱いだ。グローブを装着して、もう一度かぶる。  あと8! あぶねえ!  3、2、1! 「ボワーン!」  耳元で銅鑼が叩かれたような音がした。  ゲームタイトルが地平線の向こうからやってくる。ゲームスタートは、両手のグローブを強く握れば良かったはずだ。  握った。 「痛ってえ!」  マウントディスプレイをかぶった頭から、ケツの穴まで、全身に電気が走ったような痛みがあった。画面が、だんだん明るくなってくる。おお、ついにフィールド画面が来るか!  ……明るくなった。  ん? 明るくなったが、映っているのは、おれの部屋だ。  右を向いてみる。おれの本棚だ。ちなみに、右下に広辞苑の外箱があるが、中身はエロいブルーレイだ。  左を見る。おれのベッド。  まじか壊れたな。マウントディスプレイ搭載のカメラ映像が出ているだけだ。さきほどの漏電みたいなショック、あれで壊れたんだろう。 「カズマサ、早くせんと仕事遅れるよ!」 「お、おう!」  ふいを突かれて、びっくりした。オカンか。  そう、おれの名は「小野和正」だ。「小田和正」と名前が似ているので、おじさん世代からは絶対ツッコまれる。  スナックに行けば、ママさんから「東京ラブストーリー歌って!」とせがまれる。知らんし。トレンディ世代じゃないんだから。そして期待を裏切って悪いが、ものすごい音痴だ。  いやいや、それより、朝? おれは窓の外を見た。ほんとだ明るい。  壁の時計を見る。7時35分だ。  これ、ひょっとして、さっきの電気ショックで気を失ってたのか。そんなことあるかな?  マウントディスプレイを外した。すごい目がぼやける。八時間ぐらいゲームをやった後みたいだ。  コンタクトを外そう。グローブを脱ぎ、目を大きく開いた。  あれ? コンタクトがない。裸眼だ。  目をぐるぐるしてみたが、どこかに入り込んでる様子もない。落ちたかな。おれは顔を上げた。  あれ? 机に、PCが無い。右の本棚を見た。本棚はある。けど、並んだ本の背表紙には、見たこともない文字が書かれていた。  ……これは、おれの部屋じゃない。  ベッドと机、本棚の配置は似ているが、床なんて石だ。いやいや、それ以上に天井なんて、あれはワラ? 茅葺きの家かよ。  動こうとしたら、足元に何か当たった。見ると木の兜だ。ヨーロッパの騎士がかぶるような、すっぽり顔まで入るヘルメットのような物。その隣には革製の手袋。  持ち上げて中を見た。ちかちか光ったスクリーンパネルが内側にある。なんだこれ。かぶってスクリーンを見てみた。  パソコン机に右に本棚。広辞苑もある。ああ、おれの部屋だ。なるほど! なんてことはない。さきほどの部屋はゲームの世界か。  安心してディスプレイを脱いだ。  ……いや、待って。  おれ、今、ディスプレイを「脱いだ」よね。なんでこっちがゲームの世界なわけ?  とりあえず座った。もう一度、木の兜をかぶる。自分の部屋が見えた。  木の兜を脱ぐ。この部屋。  向こうがこっちで、こっちが向こう?
/117ページ

最初のコメントを投稿しよう!

72人が本棚に入れています
本棚に追加