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私はこの過程が好きだ。
ナスに限らず他の野菜でも果物でも、何でも好きだった。
少しずつすこしずつ、出来るだけきれいに皮を剥きはがして中身を露わにしていくのが大好きだった。
――その中身を彼へと食べさせてあげるのはもっと好きだった。
残念ながら今日はあまり時間がないので、一筋二すじだけ剝いて止めにしておいた。
残りの焼きナスは縦半に切り、身をスプーンで掻き出す。
本当にあっという間でつまらない。
フードプロセッサーにさっき合わせた調味料と一緒に入れ、よく混ぜる。
器へと盛り付ける際に、緑色が鮮やかなEXバージンオリーブオイルを垂らせば出来上がりだ。
軽く焼いておいた薄切りのバゲットに、『塗る』というよりは『乗せて』食べるととても美味しい。
白ワインはもう既に冷やしてあった。
温かいナスのペーストを乗せた香ばしいパンと、キリッと冷えた白ワインとの組み合わせはとてもよく合うと思う。
今度は彼が食べた時の顔を思い浮かべて頬が熱くなった。
このナス料理の名前はババガヌーシュという。
『自由奔放に男を誘惑する女』という意味もある中東の料理だった。
もうすぐやって来るだろう彼は私がそんな女だとはまだ知らない。
私の料理を大いに食べ、――その後で私をおおいに食べるつもりなのだろう。
でも、それは大きな間違いだ。
インターホンが来客を告げる。
僕が開けたドアの向こうで彼が立っていた。
ケーキの小箱を片手に笑ってみせ、言う。
「メリークリスマス」
「メリークリスマス」
私も応じて彼を招き入れる。
彼との初めてのクリスマスディナーの始まりだった。
ババガヌーシュはほんの軽めの前菜で、彼が今夜のメインディッシュだった――。
終
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