(六)

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(六)

     (六)  先輩の退職のいきさつを知って、上に不服を申し立てた。  だが相手にされず、逆に転勤か依願退職を迫られた。  後者を選んだ。  こうなったのも、先輩に二股の件を告げたからだと思う。  でも後悔はない。  あのままにしておいたら、先輩はいずれ悲しむことになっただろうから。そんなことは許せなかったから。 「新たな仕事先、見つけました。だから逸田(いった)先輩……」  満願の翌日。逢いたいといってきた後輩のから、 「結婚を前提におつき合いしてください!」  琴華はそう告白された。  一本気な彼のその男気が、五寸釘以上の鋭さで琴華のハートを貫き、そして、呪いの結果など吹き飛ばしていた。  また同じころ―――。  最近宇都ちゃんが夜な夜な外出していることを、おばさまに聞いた。  どこへ、なにをしにいくのかもわからず、心配だということも。  あの報告のせいで自暴自棄になり、いかがわしい場所に入り浸っているのか? もしくはショックのあまり自殺を考え、死に場所を探しまわっているのか? 負の想像ばかり浮かんだ。  いわなかったらよかったのか……。  でも、宇都ちゃんのことを一番に大切にする人と一緒になってもらいたかった。  本当は、自分がその人になりたかった。だが、姉弟というような関係が邪魔をしていた。  しかしこうなった今、もう吐露するしかないと決めた。 「姉ではなく、ぼくの妻になってほしい!」  丸の内に自社ビルを持つ財閥家の長男―――宇都の幼馴染から、彼女はそう告白を受けていた。  かつて見たことのない、彼の強く男らしい態度は、蝋燭の灯火(ともしび)に負けない温もりで宇都のハートを包み、彼女から呪いの結果など消し去っていた。
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