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砂遊びをしている二人の子供がいた。
一人は男の子。
まだ小学校低学年ほどで、背丈も小さく、顔も幼い。
もう一人は女の子。
こちらは小学校上級生、もしくは中学生ぐらいの女の子だ。
女の子は大きなスコップを使い、土を盛って器用に整形をしている。
男の子はそれを使って、様々な形の物を作っていた。
星や三角形、お団子。そんなシンプルなものを泥だらけになりながら。
「できた!」
女の子は嬉しそうに声を挙げる。
そこには大きな山が出来ており、真ん中に穴が出来て、トンネルになっていた。
穴のトンネルを行ったり来たり、喜ぶ女の子。
だが、それに対して男の子の表情は暗い。
「ねぇ、お姉ちゃん。僕、おうちに帰りたい」
泥だらけで、その場にへたり込んで俯いてしまう男の子。
女の子が上を見ると、空は茜色へと染まっていた。
「まだダメだよ。お父さんとお母さんが仕事してるから」
「しごとしてるの?」
「そうだよ。今、大変な仕事をしてるからね。なんでも内緒の仕事なんだよ」
なだめるように話す女の子。だが、男の子は納得いかないのか、顔を上げない。
うーん、と困った様子になる女の子。
「ちょっと待って。一応聞いてみてあげる」
服のポケットから携帯を取り出し、汚れた手で番号を押す。
何度かの電子音の後に、ガチャリ、と切られる音。
それを聞いて口をとがらせる女の子。
「ごめんね、まだやっぱり仕事中でダメみたい」
「お父さんとお母さん、何のお仕事?」
男の子の言葉にうーん、と眉根に皺を寄せる女の子。
「私もよくわからないんだけど、一度その仕事見たことがあるよ」
「どんなの?」
「何かね、花火だった。パーンって音がすると、そこに綺麗な花火が出来るんだよ」
「すごい! お父さんとお母さん花火作れるんだ」
「でもね、後片付けが大変なんだって。臭いもすごいし」
話しながら泥の山を崩し、今度はお城のようなものを作る女の子。
それに男の子も加わって、和気藹々とした様子。
「お父さん、お母さん仕事まだかな……」
「もうすぐだと思うよ。早く会いたいね」
電子音が携帯から鳴る。
女の子は今にも飛び跳ねそうなぐらい喜びながら、その電話を取る。
「あ、パパ? そっち終わったの? え? 今から来る? ホントに! じゃあ二人で待ってるよ。早く会いたいってあの子も言ってたよ」
それから何度か頷いた後、女の子は携帯を切る。
「もう終わったらしいから、今から会えるよ」
「本当に! パパとママに会えるの?」
先ほどまで、この世の終わりのように沈んでいた男の子の表情に明るさが戻る。
よほどうれしいのか、何度も万歳をしていた。
「良かったね!」
「うん! ところで……」
「何? どうしたの?」
「お姉ちゃんって、誰なの? パパとママの友達なんだよね?」
女の子は、男の子の頭をガシガシと撫でる。汚れたその手で。
そして、抱き寄せて抱擁をする。
「そうだよ。お姉ちゃんはね、君のパパとママのお友達なんだ。もうすぐ、私のパパとママが君のご両親を連れてこっちに来るからね」
「もう直ぐ会える?」
「会えるよ。嬉しい?」
その言葉に男の子は満面の笑みを浮かべる。
女の子は男の子から離れると、大きなスコップを手にする。
長い柄と、先端はスプーンのように大きな幅広のそれを手にし、地面に突き刺し、足を先端にかけて体重を乗せて地面をえぐり、土を掘り起こす。枯葉と、黒い土砂が姿を見せ、そこが山であることを再確認させられる。
「お姉ちゃん、何してるの?」
「足跡消してるの。次、誰かが使うときに足跡があると迷惑するからね」
「そうなんだ」
手慣れた様子で、地面に残る跡を巧く消していく。
地面を均して、手に残った泥をパッパと落とす。
ぐるり、と周囲を見渡すと、見上げる程高い木々に囲まれていた。
人の気配は一切なく、水を打ったように静かだった。
「お姉ちゃん、あれは良いの?」
男の子が指さした方向。
そこには大量の土を掘り起こして出来た穴があった。
人間がすっぽり三人は入りそうな大きさ。
「ああ、それは良いの。もうすぐ使うから」
「何に使うの?」
「入れるんだよ。一人だけ仲間外れだと、寂しいからね」
「何を入れるの?」
小首を傾げて女の子の方を見る男の子。
女の子は男の子の手を取り、膝を曲げて男の子の視線まで腰を落とす。
どこか憐れむような目で彼女は男の子を見つめると。
「――君を入れるの」
現実を突きつけた。
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