別離(※R18パート)

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「ん……っ、んんッ」  幾度となく交じり合う舌。溢れた唾液がだらしなく顎を伝っていく。咥内の良いところを刺激されると、晃人はそれに応えるように、握る手に力が入った。唇を離してもすぐに追ってきては塞がれる。息が苦しくて頭がボーっとする。顔が熱くて溶けそうだ。  掴んでいた手が離されると、今度はその手が晃人の腹部を這ってきた。 「っ、やなぎ……」  Tシャツを捲し上げると、柳は胸元の小さな突起を舌と指で撫で始めた。 「アッ、待っ……!んっ」  丁寧に、なぞるように転がしては吸い上げ、摘まみ上げる。ぴくぴくと形取るように立ち上がっていく二つの小さな突起。  魂魄の時、今まで散々触られたからなのか、初めてのはずなのにその時の感覚が蘇る。魂魄の時に感じた部分を同じように感じてしまうなんて。抵抗しなければ、そう思うのに、掴んだ腕に反抗する力が入らない。  柳が触れる場所に熱が帯びる。次々と伝わる熱に、抵抗する暇が与えられない。 「……や、なぎ……」  言葉を遮るように柳は再び唇を塞ぐ。同時に下半身へ手が伸び、緩く勃ち始めていた晃人の突起へ指を滑らせた。 「ッ!」  ぐちゅぐちゅといやらしい音が部屋に響く。 「んっ!んんッ」  赤く染まった頬、目元は涙がじんわりと滲んでいた。晃人は目を細め、擦られるたび熱く込み上げてくる快感を感じ取る。やがて白い液体は先端から流れ、柳の手を伝った。一度達した晃人の体は、肩で大きく呼吸を繰り返していた。晃人は柳を見つめると、息も絶え絶えに言葉を発した。 「柳、待ってくれ……急にどうしたんだ……何か、あったのか……?」  晃人は柳の頬に手を伸ばした。 「晃人さん……」  晃人の手のひらから伝わる温かく優しい温度に瞳を揺らめかせる。しかし眉間にしわを寄せ、遮るように瞳を閉じると、その手を跳ねのけ、床に押さえつけた。  そして間髪入れず、柳は白い液で濡れた指を晃人の後部へ挿入していった。 「ッ、やっ、アア……っ」  ビクンと体が跳ねる。魂魄の時とは違う、後部から伝わってくる異物感。ズンズンと奥へ進んでいく。内壁をまんべんなく押し当て、何度も抜いては挿れてを繰り返していく。前部の突起から垂れてきた液が後部へと伝う。次第にいやらしい音へと変化していき、指の滑りも早くなっていった。 「うあっ、あっあッ!ああぁっ」  一点に強く触れた時、晃人は過剰な反応を見せた。おそらく、そこが一番刺激が通る場所だ。柳はその一点に集中して刺激を与え続けた。 「やっ!あッ、ソコっ、だめッあぁっあッ!!」  前部の突起が再び空を向く、自然と腰も動き、喘ぐ声も大きくなった。指を抜き、柳は自身のを晃人の後部にあてがった。ゆっくり押し進める柳の突起。内壁は柳の形を覚えているかのように受け入れていく。 「うっ、あぁっ、んぐぅ……っ!」  先程とは比べものにならない大きさだ。晃人は苦しさで顔をしかめた。 「はっ、はぁ……っ、はぁ……」  乾いたはずのブロンズの髪は乱れ、汗で額に張り付く。真っ赤に染まった頬に溢れた涙が伝って落ちる。柳は零れ落ちる晃人の涙を指で拭い、火照りきった頬を撫でると、晃人を愛おしそうに見つめた。 「晃人さん……」  傍に居続けるほど心は揺さぶられ、やがて想いは言葉になって溢れ出る。柳は目を細め、切ない表情と笑みを浮かべて言葉にした。 「晃人さん、俺、晃人さんのことが好きだ。この先もずっと」  柳の突起はズンっと奥へと侵入を始めた。 「ッア!ぅああっ、んあぁッ!」  何度も前進と後退を繰り返し、内壁が柳の形を覚えきると、苦しさが勝っていた先程とは違い、次第に快感をもたらす刺激に変化していった。 「んあっあッあぁっ!!」  晃人の中に柳の熱い液が注ぎ込まれると、晃人の突起は快感に応えるように先端から白い液をドクドクと流した。  晃人は脱力し、ぐったりとその場に横たわっていた。柳は部屋の隅に置いていた自分のバッグから御札を一枚取り出すと晃人の額にそっと近付けた。 「晃人さん、ごめん……」  遠のく意識の中、ぼんやりと聞こえた柳の声を最後に、晃人は深い眠りについた。  柳は帰宅すると真っ直ぐ自分の部屋へ向かった。ドアノブに手をかけたところで「おかえり」と声をかけられ、その手が止まる。 「ただいま」  振り向くことなく返事をする柳。 「今日は楽しめた?」 「……」  返事がない柳に、樹はやれやれといった感じで軽く溜め息をついた。 「本当にこのままでいいの?」 「いいよ。どうせ全部無かったことになる」 「柳……」  そう言って柳は部屋へ入り、なだれ込むようにベッドに身を委ねた。 「あんなこと、するつもりなかったのに……」  ポツリと呟くと、柳はそのまま瞳を閉じた。  目が覚めると朝になっていた。今は何時だろうと、晃人は手探りでスマホを探す。さらに手を伸ばし、体を動かそうとすると全身の倦怠感に気付く。何でこんなに体がだるいのだろう。まだボーっとする頭で昨日のことを思い出す。  昨日は確か柳と映画を見に行って、ラーメンを食べたあと、雨が降ってきて――。  ハッとして勢いよく体を起こすと、そこは自分のベッドの上だった。  昨日、どしゃ降りの雨の中柳を家に連れてきて、それで、柳に……。  昨日の出来事を鮮明に思い出すと、一気に顔が熱くなった。 『俺、晃人さんのことが好きだ。この先もずっと』  その言葉が何度も頭の中で反芻する。何がなんだか、晃人の頭は混乱していた。柳にされたこととその言葉の意味はつまり、そういうことだ。けれどその表情は哀愁を帯びていた。何故柳があんな顔を見せたのか全く分からない。 「そうだ、柳は……!?」  部屋を見回しても柳の姿は見当たらなかった。ふと、床に目をやると昨日柳に貸した服が丁寧に畳まれて置いてあった。乾燥機にかけた柳の服も一切なくなっている。  そして、その日を境に、柳からの連絡がぱたりと途絶えた。  あれから二週間が経とうとしていた。  こちらから連絡を取ってみるが、うんともすんとも言わない。当然晃人は祓い屋の仕事にも行っていない。柳の身に何かあったのだろうか。心配をしていたが、送った内容はちゃんと読んでいるようだ。ただただ無視をされ続けている日々である。あの日のことを気にしているのだろうか。確かに、どんな顔をして会えばいいのか分からない。それでも、一言理由くらいは言ってほしい。  柳の家に押しかけて理由を問い詰めることも考えたが、さすがにそれは気が引けて思い止まっていた。しかし、こうも音信不通が長く続くと段々と怒りの感情も湧いてくる。もういっそ勢いに任せて押しかけてしまおうか、そう思った矢先、二週間ぶりに柳から連絡が届いた。  木の陰から柳の家をじっと見つめる晃人。まるで不審者だな。そう思いつつも、中々その先へ足を進めることが出来ずにいた。 『話したいことがあるから家に来て』  日時を指定され、連絡があった通りに柳の家までやって来た。しかし、いざ目の前にすると何を話せばいいのか悩んでしまい、頭の整理がつかない。聞きたいことは沢山あったはずなのに考えがまとまらない。それに、柳が話したいと言っていたことは一体何なのだろうか。もしかしたらこの間のことだろうか。 「何してんの」  急に背後から声がして晃人は思わず「ぎゃあっ」と短い叫び声を上げた。振り向く間もなく、声の主は晃人の横を通り過ぎ、自分の家へと歩いていく。その後ろ姿は紛れもなく、ずっと音信不通を貫いていた柳だった。 「お、おい柳!いきなり連絡来なくなって心配してたんだぞ!」  柳は晃人の声を無視して歩き続ける。 「何かあったのか?祓い屋の仕事のことも全然言ってこないしさ」  何も答えぬまま柳は玄関のドアに手をかけた。 「おい返事くらいしろって!」  そう言って柳の肩を掴み顔を向けさせると晃人の手は止まった。振り向いた柳の顔は無表情で、拒絶するような冷たい目をしていた。初めて会った時と、同じ目だ。ズキンと、胸の奥に痛みが走る。  肩に置かれた手を払うと柳はようやく口を開いた。 「色々と準備があったから」 「準備?何の?」  柳は冷淡な瞳を向けて晃人に言った。 「あんたを人間に戻す方法が見付かった」  一瞬、時が止まったような気がした。その言葉を聞いて嬉しいはずなのに、願っていたことなのに、なぜこんなにも心がざわつくのだろう。 「今日はそのことで呼んだ。詳しいことは中で話す」  言われるままに柳の後について行く。以前は頻繁に来ていた柳の家。たった二週間かそこら来なかっただけなのに、胸の奥に懐かしさを感じた。  通されたのは、いつもの客間ではなかった。そこは広い畳の空間。おそらくここも客間なのだろう。襖で遮られているが、開放すれば大勢の人が入れそうな広さだ。しかしいつもと雰囲気が違う。廊下を歩いていた時からそうだった。人の気配が感じられない。 「今日は家に誰もいないのか?」  柳は抑揚のない声で返事をした。 「ああ、いない」 「へぇ。そう、なんだ……」  やはり柳の様子もおかしい。二週間ほど前までは血の通った表情を見せていたのに、今はまるで感情のないアンドロイドと話をしているようだ。広い空間に柳と晃人の二人きり。異様な光景だ。  柳は足を整えて正座すると、両手を膝の上に置き姿勢を正した。そんな柳の姿勢に反抗するように、晃人はあぐらをかいて座った。 「で?元に戻る方法が見付かったってのは、本当なのか?」  晃人は半ば疑って聞いた。本当は話をする口実としてわざとその話題を持ってきたんじゃないかと、そう思いたかった。しかしそんな思いとは裏腹に、柳はこくりと頷く。 「以前、古い書物から式神転生術に関する新しい記述が見付かったと伝えただろう。だいぶ古いものだったから、解読に少し時間がかかった。けど、そこには元の体に戻す術式が確かに書かれていた」 「そう、なんだ……」  元の体に戻ったら、式神でなくなったら、この関係はどうなるのだろうか。  ずっとそう考えていた。考えて考えて、そして思ったのだ。共に過ごしてきたこの数ヶ月間は、特別で忘れられない、かけがえのない日々だったと。  一緒に祓い屋の仕事ができなくなったら、会える機会は減るかもしれない。けれど、会いたいと思う気持ちが確かにあるのなら、心の思うままに向かって行けばいい。元に戻った後も変わらず柳の傍にいたい。柳の笑顔をもう一度、何度でも見ていたい。理由なんてそれで十分なのだ。お節介だと言われようが構わない。  心の思うままに突き進んで行く。それが篠宮晃人という人間だ。  晃人は意を決したように顔を上げ、柳を真っ直ぐ見つめて言った。 「柳、俺は元に戻っても変わらずお前と会いたい。柳に会いに行きたい!この先も!」  しかしそんな晃人の言葉を柳はぴしゃりと返した。 「それは出来ない」 「え……」  ここまではっきり言われると思っていなかった。また胸の奥がズキンと鳴った。 「な、何でだよ。もしかしてこの間のこと気にしてるのか?そのことなら――」 「消えるから」  柳の言葉に、言いかけた口が止まった。消える?何がだ?柳の言った言葉が理解出来ず、無感情のその瞳に向けて問いかけた。 「消えるって……何が?」  柳は少しだけ目を伏せると、淡々と言葉を続けた。 「式神は元の人間の体に戻る代わりに、これまで術者と関わった一切の記憶が失われる。つまり、あんたは俺と出会った廃墟での一件以降、今日までの記憶が全て消えるってことだ」 「なん、だよ……それ……」 「心配しなくても、消えるのは俺と、俺たち家族の記憶だけだ」 「待てよ!そんなのおかしいだろ!俺だけお前の記憶が消えるっていうのか!?一方的過ぎるだろ!」  晃人は理不尽な条件に反論しようとしたが、柳はそんな晃人の物言いを冷静な口調で返した。 「何もおかしいことはない。式神だった者が一般人に戻るんだ。術の情報漏洩を防ぎ、かつ本人に今後危険が及ぶことがないよう、記憶が抹消されるのも当然と言えば当然だ」 「何でだよ……お前はそれでいいのかよ……?」  平然と受け答えをする柳に晃人は困惑する。数週間前までは憎まれ口を叩きながらもお互い上手くやれていたと思っていた。親密な仲になっていったと、そう思っていた。  なのに、柳はこんなにもあっさり受け入れてしまうのか。 「あんたを人間に戻す、最初から俺の目的は変わっていない。俺は自分の決めたことを完遂させる、ただそれだけだ。あんたも人間に戻りたいと息巻いていただろ」 「そうだけど、だって、そんなのあんまりだろ……。そりゃ、最初は一刻も早く元の体に戻りたいって思ってたよ。何で俺がこんな目にって、最悪だって思ってた。けど、少しずつ柳と距離が近くなって、悪霊退治だって、ちょっとずつ連携も取れるようになってさ。不格好だけどやってこれたじゃねぇか。辛い時も確かにあったし、怖いことや危険なことも沢山あった。でも一緒に乗り越えてきたじゃねぇか。支え合えていたじゃねぇか」  晃人の握り締める手に力が入る。 「柳、廃工場で俺に言ってくれたよな。全然役に立てなくて凹んでる俺に、足を引っ張っているなんて思うなって。俺はそう思ってないって。あの時嬉しかったんだ。俺は柳の側に居ていいんだって、本当は泣きそうになるくらい嬉しかったんだ!」  次々と溢れてくる柳と過ごした記憶。そのどれもが、眩い光を輝かせて晃人の脳裏に降り注ぐ。 「あんなに嫌だと思ってたこの生活が、今はもう、俺にとってかけがえのないものに変わってんだよ……!なのに、そう思ってたのは俺だけかよ……何だよ、俺バカみたいじゃん」  額に手を当て、唇をかみしめる晃人。側にいられないどころか、柳との記憶が消え失せるなんてこんな残酷なことはない。胸が苦しくてたまらない。何故こんなに離れがたいのか、何故こんなに側にいたいと切望するのか、何故、こんなにも胸が締め付けられるほど苦しいのか。 『晃人さんが、好き』  あの時の光景が蘇る。悲しそうで苦しそうで、今にも泣いてしまいそうな表情でそう言った柳の言葉。  あぁ、そうか。そうだったのか。 俺はいつの間にか、柳のことをこんなにも――。 「……そろそろ時間だ」 「時間……?」  晃人は柳が言っていた言葉を思い出す。 「待て……、今日までの記憶って言ったよな……じゃあ、俺を今日ここに呼んだのって……」 「あぁ、これからその術式を使ってあんたを元の体に戻す」 「待てっ!何勝手に決めてんだよ!俺はまだ――!」  言いかけた瞬間、柳は晃人の体に御札を押し付けた。晃人の意識は次第に遠のき、体勢を崩すと柳の体に倒れかかった。柳はしっかりと受け止めると、まるで子供が大切な宝物を抱えるように、腕の中で眠りについた晃人を抱き締めた。 「ごめんなさい、晃人さん……」
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