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「おはよう、鬼龍!」
聞き慣れた声が聞こえる。
力強くて、それでも優しい声に目がゆっくりと開く。
「…おはよう、守沢。」
目を開けて隣を見ると、今が朝ではなく昼過ぎの2時なのでは、と思えてしまうほど活発で、元気な顔が見える。
「今何時だ…? 俺…って、ここ寝室じゃねぇな。」
「ああ!ここは作業室だな!周りの状況から見て、服を作っていたら寝落ちしてしまったんだろうな!」
…あぁ、そうだった。あんずの嬢ちゃんに服を作ってくれと、頼みを受けて、そのまま作業室に即行して、服をずっと作っていたんだっだ。寝落ちはまあ、いつものことだ。あんまり気にしない。が。
「…うーん、うわぁ。」
俺の真下にある布が、床に落ちて皺だらけになってしまったのだ。
「うん?どうした、どうした?」
「いや、服がぐちゃぐちゃになっちまってよぉ。疲れてんのか、俺…?」
「最近の鬼龍は働きすぎている気がするぞ?体調を崩さないか心配だ。」
…またこいつはよぉ…。と呆れながら適当に布を拾い、心配だ、と言ってくる男の顔を改めて見上げる。
が、何かがおかしい。
「…?」
「どうした?俺の顔に何かついてるか?」
…わかった。こいつの違和感の正体。
「お前、猫耳ついてんぞ。どうした?」
「えっ、猫耳?つけた覚えはないんだが…。」
「って、尻尾もついてんじゃねぇか。マジでどうしたんだよ。」
「え、あ、尻尾も?……本当に俺も知らないんだが…」
意外と反応が可愛い。もっと慌てると思ったがちょっと不思議そうに見つめてる。
そう守沢の反応をじっと見つめていると、急にちょっとした爆発音が聞こえ、視界が白く曇る。
「…?!」
音と煙の原は千秋の方からだった。
「守沢、大丈夫か!」
と、咳を混じりながら千秋の安全を確認しようとしたが、返事は聞こえない。
白い煙の中で手を振り、ある程度目の前を晴らせたとき、そこに千秋はいかなかった。
「!?…守沢!!」
と驚きを隠せず千秋の名を叫びながら周りを見渡していると、なんかに脚を掴まれている感じがする。
そのまま下を見下ろすと、何かがついている。小さい何かが。
「……」
コレは、いや、コイツは。
「…守沢、か?」
俺の足に縋っていた猫は、俺の声を聞くと俺の方を見上げ、ごくごくと頷いた。
「…マジかよ…。」
俺の興奮が少し収まったように見えたのか、コイツは俺の脚から降りて、その大きくまっすぐな紅い目で俺を見つめる。
「顔はちゃんと守沢なんだな…。」
この千秋(猫)は人間の言葉は分かるみたいだ。だが、頑固に喋らない。
千秋(猫)の首を掴み上げ、俺の目の前に持ってくる。
「喋れないのか?」
「…すこ、し、しか。」
「…はぁ…。」
どうしてこんなことになったのか、と頭が混乱し始める。
「…——?」
「…あー、まあ。」
しかし、表情はちゃんと生きている。そのおかげで、なんとなく千秋が何を言いたいのかは分かる。
「そういう顔すんなよ。一番しんどいのはてめぇだろうによぉ。心配させてわりぃな。」
「…。」
おいおい、さらに顔が歪んでるぞ。自分より俺の心配って、どんだけ人好しなんだよ、まったく。
「…まずは下ろすか…。」
俺に首掴まれて落ち込んでる姿を見てるとさすがに心が痛む。しかも人間の姿で、って。
「で、こうなったことに心当たりはあるのか?」
「…。」
首を振る。猫耳つけてた(生えてた?)時点で慌てていたから、まったくないのだろう。
「んじゃあ、どうするか…。」
と悩んでいる時に、とある事に気付いた。
「って、服は人間のままかよ…。…しゃあねぇ、作っちまうか…。」
たしか千秋の服と似た色の布があっちにあったはず、と席を立とうとしたところ、急に服を掴まれた。
「どうしたんだ、急によぉ。てめぇの服の布取ってこようとしてんだよ。」
俺の話を聞いてもまったく服を離してくれない。むしろ全身で力強く掴んでくる。
「…わかったよ、まったく…。」
千秋を持ち上げ肩に乗せて、そのまま布を取りに行く。
千秋はいつ戻るのだろうか、と考えながら、すこしゆっくり歩く。
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