ラストの部活

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「ねえ、スズ」 横から顔を覗き込むようにハナが話しかけてくる。 「何?」 少しぶっきらぼうになってしまう。 「終わったね…音楽部」 そうだった。 高校三年生。 私たちの部活はこれで終わりだ。 この学校では部員が6人以上でないと存続できないという規定がある。さらに言えば一度そうなると、他に部員を増やすことはできない。 ―――お情けなのか部員が全員卒業するまでは廃部にならないんだけどね… もともと2年生は二人しかいなかったんだ。 一年の頃に入ったのは私達3人だけ… わかってた。いつかこうなるのは。 他の部活がここを使いたいらしい。それで掃除していたのだ。 …でも一つだけ。 私達に自ら掃除させるって随分な仕打ちだと思うんだけど!!! だいたい何よ!私達がやりたくないって言ったら こっちが廃部寸前だからって強気に出てきて ――そんなこと知るか。早く片付けろ って言ったのよ?! 「だ、大丈夫?」 い、いけないいけない。なぜかシャドーボクシングしていた… 「…ねぇ二人とも、そっちのが終わったんだったらこっち手伝ってよ。」 コナツにいつもより低いで声で呼ばれた。驚きながらも、見ると足元に大量の譜面を散らかしている。私、ハナ、コナツ。これで全員だ。 怒っているかと思い、慌てて返事を返す。 「わ、わかった。ごめんね」「ごめんって〜」 動きたくはないが、そうも言ってられない。 本気で怒りそうだし… 約1時間かかってやっと先輩方の譜面が半分くらいになる。 ――にしても古い順でやっていってるから知らないやつばっかりだったな… 「スズ…これ…」 ハナが一枚の譜面を差し出す。 これは…確か悪ふざけで文化祭のときに即興やったときのだ。そのせいかリズムと音符をペンで潰していた。 このときはこっぴどく顧問の金剛に怒られた。 でもね…異議があるの。 私達だってやる曲が楽しいやつなら良かったわよ でも演歌なんてチョイスしてきたのよ? ギターでどうやって演歌ひくのよ! 「できないならやるな!」 同じことを思い出していたのか、コナツが金剛先生のマネをして野太い声で言う。 やはりあまり似ていない。 「似ってる〜!」 いや、似てないわよ。 鈴がケラケラと笑った。この子にとっては雰囲気だけでいいのかもしれない。 「ちょっと間違っただけなのにね。ていうか演歌チョイスした先生が悪いのにね〜」 似ていないことについてはスルーした。 「「ね〜」」 二人がここぞとばかりに声を合わせる。 「そういえば合宿もしたよね!」 突然声をはずませハナが言う。 たしかにやった、そのときはたしか…… 「夜中まで起きてて先輩二人に怒られた……」 「そうそう、でも最後には先輩も含めて全員で恋バナしたんだっけみんなでプロになる!!……っていう約束もしたよね」 笑いながらコナツが言う。 私達はいつもおこられてばっかりだった。 「先輩たちは無理無理って半分呆れてたけどね」 「まぁハナはその頃には寝てたけどね っねハナ」 いつの間にか、譜面を整理していたハナにコナツが話しかける。 ………って、目が赤くなってる! 「どうしたの?!」 「先輩の手紙見つけた…」 らしくなく塩らしい様子でハナが言う。 私はひったくるようにしてそれを横取った。 ――先輩の文字だ… 『もっとみんなとやりたかった。先輩たちともスズたちとも。戻ってきたら誰かの楽器が鳴っていて誰かが歌ってる。そんな日をもっと重ねたかった。』 たったこれだけの文章。たけれども心が閉まる。 私達も…もっと… なんとか泣かないように騒がしく掃除してたけどやっぱり3人だけは寂しいよ… コナツが、近寄り、話しかける。 「楽しかったね…」 うん 「もっとやりたかったね」 …うん 「…ごめんちょっと無理…今これ以上話しかけられると…」 涙がとめどなく出てくる。 先輩たちが卒業したときにもう泣かないって決めたのにな… なんで、泣いちゃんだろ。 「卒業…したくないね…」 もう言えているかもわからないくらい鼻声になってしまった。 学校のチャイムがなる 早く片付けないとまた先生に怒られる。 涙がこぼれないように私達はそっと残りの大切な大切な譜面を片付けた。
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