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その3
剣崎
この日の矢島さんはいつもに比べて多弁だった
まあ、どちらかと言えば機嫌もよかったな(苦笑)
...
「…小日向のヤツ、ますます会長の秘書気取りだぜ。まあ、本家付きももうお役御免だし、建田も任期延長できたんだから満足だろ。いいか、次の幹部会ではお前の本家付き就任が決まる。フン…、これからはあっち側の思い通りにはさせねーよ。剣崎、頼むぞ!」
「了解してます…」
「まあ、お前なら万事心配はないが、”バカ殿”のことがあるからよう…。若が何かしでかせば、責任は時の本家付きになる。何と言っても跡目を会長から指名されたんだから、オツムが足りないと皆承知していても、対外的にはそれなりの立場で解釈されちまってる。出来れば、万一の時のために、他のモンで責任を取らせる配置を考えておいた方がいいな」
「わかりました。おいおい、上手い立ちまわり方を模索しますよ」
「ああ、然るべき時期になれば大切な神輿だ。担ぐ”位置”はしっかりと確保しとかなきゃならんが、あんなウツケの尻拭いなどは適当なヤツにおっかぶせちまえばいい。お前の序列でこの時期に本家付きに送り込むのはよう、単なる秘書に収めるつもりなど、毛頭ないんだからな。お前には、持病を抱える会長の実質的な代行を担ってもらう…。これは心しとけよ」
矢島さんはサングラスの奥でキラッと鋭い眼光を発して、俺への念押しをしてたよ
...
今の相和会内部は会長が実子である若を後継指名して、表向きでは組全体が一枚岩となって支える体制になっているから、一応、組織は平穏を保っている
しかし、腹の中では各々の思惑が沸々と煮えたぎってるわな(笑)
無論、会長もそんなことなど先刻承知で、あえてデキの悪い息子を生前に後継者として指名して業界にも公言したんだ
そして、ここでも例のダブルミーニングを生んでいる
果たして会長の真意はどこにあるのかと…
それ…、我々にもはっきりとは断定できないんだ、これだけは…
...
だから、不測の事態も含め、万事に備えるということが我々サイドでも必要となる訳なんだが…
フフ…、矢島さんは現本家付きの小日向が若のお守りを忌避している胸の内を見定めて、俺を本家付きの後釜に据えるアイデアを思いついたようだ
本来の慣例から照らせば、”次”の人事は矢島さんサイドとなり、小日向と同格か下の序列から選出されることになる
しかし、2代目会長の指名を受けた重要な立場である若を守るには、その奇異な素行等を考慮すると、よほどの者でないと務まらないだろうということで、極めて異例ではあるが小日向の上の序列にいるオレですんなりと落ち着いたってとこだわ
はは…、とにかく小日向に限らずウツケの若の面倒見など、まっぴらゴメンというのが、偽わざる誰しもの本心だからな
次期本家付き候補の順番が控えていた連中も、内心ほっとしたことだろうよ(苦笑)
フン…、これこそ矢島さんの思うつぼだったのさ…
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