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魔力を弟子に奪われた、元魔女
引き続きリンゴの皮を剥くリュシアンは、鼻歌まじりで楽しそうだ。
魔力を奪われて気落ちしている私とは正反対。
「はい、剥けましたよ」
これまた可愛くうさぎの形をしたリンゴが差し出された。
弟子よ、こんな剥き方どこで覚えた。
一応ありがとうと言って、うさぎのリンゴを口に運ぶ。しゃくしゃくの食感で甘くて美味しいリンゴだ。
……至れり尽くせりだなあ。
魔力は奪われたけど、その分リュシアンが尽くしてくれるので実際そこまでの支障はなさそうな気もしていて。なんなら王宮魔法士の仕事にも行けなくなったから、むしろ一日中家でゴロゴロする自堕落な生活もちょっと良いかもなんて……は!
ダメダメ!
私は魔女なんだからこの生活に惚けてはダメ!
魔女として魔法を使って人の役に立つ生き方をするって決めたんだから!
ぶんぶんと頭を思いっきり横に振り、自分の甘えた考えを振り払うと、リュシアンが話を振ってきた。
「そう言えば、もう師匠のことを師匠って呼ぶのも変ですよね」
魔法を使えない私は師匠じゃないってか。嫌味でしょうか。
「これからはエリーゼ……いえ、エルって呼びますね」
にこやかなのに若干の圧を感じるのは気のせい?
しれっと愛称で呼ばれたが、私の反論なんて聞かなさそうな空気だ。私は適当に返事をする。
「どうぞご自由に」
「はい」
するとリュシアンは喜んだ顔をした。
名前で呼ぶのがそんなに嬉しいの?
変な子ね。
……はてさて。どうやってリュシアンを攻略しようかな。
秘密主義の弟子を前に、私は考える。
──魔力を弟子に奪われた、元魔女。
そんな不名誉なレッテルはすぐに剥がさなくちゃ。
私は魔女よ。
弟子にやられたままではいられない。
見てなさい、リュシアン。
何がなんでも、魔力を奪い返してやるんだから!
完
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