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それからというもの、ロボットはすっかり家族の一員になった。
「ほら、ロボ。こっちへおいで」
子どもが掃除ロボットを呼ぶ。宣言どおり名前をつけ、飼い主になった気分である。子どもは紙くずを床にまいてロボットをひきつけている。ロボットなので普通のエサは食べない。ごみで釣るしかないのだ。
「こら、こら、ぼうや。あまり散らかしたらだめだろう」
父親が注意をする。これを聞いた子どもは言いかえした。
「でも、パパ。ロボは紙くずが大好物なんだ。エサをやらなきゃかわいそうだよ」
「大丈夫だよ。ロボットは食べものを食べなくても生きていけるのだから。それに、エサのやりすぎは体に良くないよ。太ってしまったら病気になってしまうだろう」
「わかったよ、パパ。ロボ、またあとでエサをあげるからね」
子どもが紙くずをポケットにしまう。ごみが無くなると、ロボットは子どもを追うのをやめ、本来の仕事にとりかかった。部屋を動きまわって清掃につとめる。せっせとごみを集めるしぐさが愛くるしい。
「ほら、ぼうや。ロボットも仕事がしたいんだ。わかるだろう」
「そうだね。パパとは大ちがいだ」
「そんなことを言うものじゃないよ」
父親が子どもをたしなめる。子どもはなおもつけ加えた。
「このロボットみたいにパパも従順だと助かるってママが言っていたよ」
「わざわざそんなことを伝えなくてもいいよ。パパが傷つくだろう」
「でも、本当のことなんでしょう」
父親は言葉に詰まる。うそとは言いきれない。いまや掃除ロボットは家庭内で確固たる地位を確立している。それにくらべて父親の存在なんて微々たるものだ。
「ほら、遊んでばかりいないで勉強でもしたらどうだ。ママからも言われているだろう」
「ええ、そんな。もっと、ロボと遊びたいのに」
「勉強が終わったらいくらでも遊べるだろう。やるべきことはちゃんとやらないと、大人になれないよ」
「わかったよ。しかたないな」
子どもがしぶしぶ自分の部屋へ戻る。ロボットとふたりきりになった父親はポケットから小さな紙くずを取りだし、床へ落とした。それを察知したロボットがすぐに駆けつけてくる。
「お前は本当に従順だね」
やってきたロボットの頭をなでる。
「わたしをなぐさめてくれるのは、もはやお前だけだよ」
ロボットは淡々と仕事をこなしているだけだが、その一生懸命な働きぶりについつい余計な感情を持ってしまう。
「これも製造した企業の狙いなのかもしれないな」
父親がもうひとつ紙くずを落としながらつぶやいた。
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