掃除ロボット

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掃除ロボット

「ほら、ぼうや。ロボットのボタンを押してごらん」  休日の自宅、父親が子どもにうながす。視線の先には一台のロボットがいる。小さな人形のような見た目だ。このロボット、掃除を請け負ってくれるすぐれものである。先日買ったばかりの新品だ。 「ここのボタンを押せばいいの」 「そうだよ。簡単だろう」 「じゃあ、押してみるね」  子どもがロボットのボタンを押した。ロボットが小さな音を立てる。電源が入った。 「パパ、動かないよ」 「大丈夫、すぐに動きはじめるよ」  父親の言うとおり、ロボットは部屋のなかを進みはじめた。あらかじめ指定されたプログラムに沿って部屋の掃除を遂行してくれる。  ロボットが動いてうれしいのか、子どもが動きまわるロボットのあとをついていく。父親はそれを目で追いかけた。 「ねえ、パパ。これで本当にきれいになるの」 「ああ、ロボットは働きものなんだ。きちんと仕事をこなしてくれるよ」 「じゃあ、パパよりすごいかもね」  子どものひと言に父親がうなる。否定はできない。このロボットはありとあらゆる掃除をこなしてくれるのだ。  床の小さなほこりやごみは吸いとってくれ、空気も新鮮なものに変えてくれる。大きなごみは小さく粉砕して取りこんでくれる。このロボット一台で家のなかはいつでも清潔だ。 「ほら、ぼうや。ためしに紙くずを床に投げてごらん」  父親が子どもに近づいて、紙くずを渡す。 「本当にいいの。散らかっちゃうよ」 「平気さ。すぐにロボットが片づけてくれるからね」 「わかった。それ」  子どもがごみをほうり投げる。子どもの力なのであまり飛ばず、ロボットからかなりはなれたところにそれは落下した。あいにくロボットは反対側を向いている。 「ちゃんと気づくかな」 「気づくさ。あのロボットは優秀だからね」  父親が言いおわると同時にロボットのセンサーが新たに発生したごみを捉えた。くるりと方向転換をして、紙くずへ一直線に向かう。 「わ、あのロボットすごいね、パパ。背中に目がついているみたい」 「そうだろう。ロボットはなんでもお見通しなんだ」  くわしい説明をしても子どもにはわからないだろう。もとより、大人だって本当のところはよくわかっていない。ただ、すばらしい技術だと感心するのみである。  ロボットは落とされた紙くずを体内に取りこんだ。取りこんだら、内部の機械でごみを細かく分解する。ロボットは、電源を入れてからいままで、文句も言わずに部屋をきれいにしていた。どこか愛らしい外見のおかげで、非常にけなげに映る。 「ねえ、パパ」子どもが呼びかける。 「なんだい」 「あのロボットかわいいね。ペットみたいだ」  子どもが熱心にロボットのしぐさを見つめる。その目線は弟か妹を見守るようにあたたかかった。 「ねえ、パパ。あのロボットをペットにしてあげようよ」 「ロボットをペットにするのかい。それはどうなんだろうな」  父親が考えをめぐらす。いくら見た目がかわいらしいといっても、所詮は掃除用の機械だ。掃除機をペットにするのとなんら変わりはない。 「ねえ、いいでしょう。どうせ、本物のペットは買ってくれないんだから」  子どもが核心をつく。残念ながら母親が動物嫌いなのだ。父親だって特別動物が好きなわけではない。むしろ、世話をするのはめんどうだと思っている。子どもが飼うとはいえ、必然的に世話は大人の役目になるのだから。  こう考えると、手間のかからないロボットで満足してくれるのはいいことなのかもしれない。 「そうだな。せっかくだからペットにしてあげようか。大切に扱うんだぞ」 「わ、本当。よしよし、名前をつけてやらないといけないな」  子どもがロボットにまとわりつく。ロボットはじゃまくさそうにしていたが、けっして人間には危害を加えないようになっている。動物とはちがい、目をはなしても危険はないだろう。しかし、一応注意はしておく。あまりにロボットの業務を妨害されて部屋が汚くなっては元も子もないからだ。 「こら、こら。ロボットにも仕事があるんだ。遊ぶのも控えめにしておきなさい」 「はあい、わかったよ」  子どもがはなれると、ロボットはごみを探して部屋を巡回し出した。
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