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雨上がりの街を歩いている。
空は徐々に赤く染まって来た。
放課後の“声”探し。
私は幼い頃からの夢を叶えるため、今日も耳を澄ましながら歩を進めていた。
相棒が欲しい。
共にあの場所に立つ、素敵な相棒が。
それが叶う日を夢みて、耳を澄ます。
いつもの帰り道である細い路地に入ろうとして、ふと立ち止まった。
今日は別の道を通ってみようと体の向きを変える。
そんな小さな好奇心が、大きな出会いをもたらすとは知らずに。
音が聞こえる。
人々の話し声、車の走行音、靴と地面が触れ合う音。
どれも私の耳を楽しませてくれるが、探し物はこれらではない。
あの場所を感じさせるような、美しい声――。
地面を踏みしめる音が妙に高く鳴り響いたその瞬間、聞こえた。
ずっと探し求めていたものだ。
少し離れた場所で、少年がアコースティックギターを弾きながら歌っている。
その声を聴いた瞬間、私の胸はどきりと跳ね上がった。
夏の終わり、辺りには秋の訪れを知らせる風が吹いている。
しかし、私の耳を通り抜けたのは、“春の音”だった。
私はその時、確かに春を聴いた。
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