私はここに居ます

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私はここに居ます

「私には記憶の中に空白がある。それは一年と十五日前の午後七時頃から、この場所で目覚めるまでの約十二時間の間である。  私はその日も一人で研究室から帰宅していた。あと数百メートルで家に着くというその時、私は突如として意識を失ったのだ。恐らく何者かに背後から後頭部を鈍器のような物で殴打された事により気を失ったのであろう。  そして目覚めるとこの場所に埋められていた。手を後ろ手にキツく結ばれ、両足も括られている。口も布やテープで塞がれていた。  一体誰が何のために?私が一体何をしたと言うのだ?私には全く心当たりがないし、そんな事を考えていると私はとても悲しくなってくるのだ。  私はここに埋められてからいつも心で叫んでいる。『誰かー!助けてー!私はここに居ます!』だがそんな心の声が聞こえるはずがない。私は今日も土の中で誰にも知られる事なく一人寂しく埋められているのだ」その時であった。 “ザクッ、ザグッ”スコップで土を掘る音が聞こえて来たのだ。 「あぁ…!やっと!やっと誰かが私を助けてくれる!長かった…。本当に…」スコップの音はどんどん近くなって来た。そして次の週間であった。彼女は久しぶりに光を感じた。約一年ぶりの太陽の光はとても眩しかった。彼女はようやく解放されたのだ。  刑事と思しき男が急いで彼女の口と手足を解放し、話しかけた。 「大丈夫か?どこか悪いところは無いか?」 「あ、ハイ、大丈夫です」 「すまないな、遅くなってしまって。ようやく犯人がキミを埋めたこの場所の事を吐いたんだ。何とか無事に助けられて良かったよ」 「ええ、丈夫さには定評があるので。お父さん…、いえ、博士がそこにはこだわって開発、テストを行っているので。不幸中の幸いにもこれで私の更なる性能が証明されました」 「犯人もその性能ご欲しかったようで、キミを誘拐して、ほとぼりが冷めるまでここに埋めておこうとしたのだよ。  これからは博士にもちゃんと防犯対策を怠らないようにしてもらわなくてはな。『アンドロイドにも人権は必要だ!』と言ってGPSも付かないし、電波を発さない仕様にしていたうえに一人暮らしをさせていたからな…」これにて世間を騒がせた“最新鋭アンドロイド誘拐事件”は無事に被害機を保護し、解決したのであった。終
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